たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
キケンな同居
そして、幼稚園の夏休みが始まるタイミングで根本マネージャーが運転するワゴン車に乗り、拓真のお宅へと生活の拠点をうつすことになった。
根本さんは移動中にも、これから湊を待ち受ける日々について、丁寧に教えてくれた。
「すでにお伝えはしてあると思いますが、夏休みの間は、拓真さんのお宅から、スタジオに通っていただく生活になると思います」
(経験あることなら、湊に何を聞かれても、パッと答えられたけど、これからはそうもいかないだろうからな……私も一緒になって学んでいかないと……)
「あのー……映画って、すぐ撮影できるわけではないんですね?」
「ええ。特に『咲て散らん』は、京都ロケが中心になりますから。まずはこちらで本読みと、所作の練習を重ねてから、やっと撮影という流れになりますね」
「きょ、京都!?えっ、そんな遠くまで?」
思わずギョッと驚いて、シートから腰をわずかに浮かす。
「ねえさん、危ない」
「そうだ。これはダメだね」
同じデニム生地のオーバーオールという格好をした小さな身体に、大の大人が過ちを正されている。
背後から聞こえるみっともない私の声に、根本マネージャーは耐えきれなくなったように、笑いを豪快に噴き出した。
「……ぷはっ……あっ、すみません」
「いえ、もはや、笑っていただいたほうが……」
湊のおっしゃる通りと、ただちに腰を下ろした私は、苦笑いを浮かべながら、苦し紛れにそうお願いした。
「……あはははっ、いやいや、確かに、知らない人はびっくりしますよね。でも時代劇では、よくあることなんですよ」
「へえ〜」
すると、私たちを乗せた車の動きが突然止まった。カーウィンドウの外に目を向けると、緑が茂る目の前の景色のずっと奥に、七階建ての中層マンションが見えた。
私と湊は揃いも揃って、口をあんぐりと開けながら、初めて目にする光景を車の中から、ただ時間も忘れたように眺めていた。
「こちらが、柳生さんのお宅のカードキーです」
ずっと前だけを見て運転してくれていた根本マネージャーが、後部座席に座る私たちに黄金色のカードキーを差し出しながら、今見ている景色が確かに現実であると教えてくれる。
「あっ!はい!じゃあ、後ろの荷物取ってきますね」
カードキーを受け取ると、一度外へと出て、ラゲッジスペースに乗せたダンボール箱を取りに行く。
その間に湊も根本さんに抱きかかえられ、車から降りてきていた。
「湊?忘れ物ない?」
「うん。だいじょーぶ」
でも根本さんは、一人で車の中へと戻っていく。
「あれ?根本さんは降りないんですか?」
「私はあくまでも、湊くんのマネージャーですので……じ、じゃあ、あとは頼みましたよ……!」
根本マネージャーは最後まで言葉を言い切る前に、大きなワゴン車を発車させた。まるで、私が喋り始める前に立ち去ってやろうという、強い意志を感じるようだった。
(えっ、ちょっ……何もそんな、逃げるように行かなくても……)
あっという間にエンジン音は聞こえなくなり、閑静な住宅街の中に静けさが戻ってくる。
湊と共に、知らない道のど真ん中にポツンと取り残され、とにかく、もう一度あのずっと奥にある建物を見てみた。
青々とした大きな空に向かって、そそり立つビルとは違い、真上にドンと座る太陽の光がしっかりと差し込むように、歪な形をしている。
自然の緑も人々の隣に寄り添うように、我々のすぐそばにも広がっている。
いつもなら、こうしている間にも、湊が私の手をグイグイと強い力で、引っ張っていくであろう。
でも、今日は二箱のダンボール箱を抱えているせいで、手を繋ぐこともできないから、暑さ対策のための帽子を深くかぶり、ただ隣で私が動き出すのを待っている。
日差しを遮るものが何もなくなった今、玉のような汗まで流れ落ちてきた。
(この暑さは、非常に危険だ……)
「湊。ひとまず、建物の中入ろうか」
「うん。そうしよう」
根本さんは移動中にも、これから湊を待ち受ける日々について、丁寧に教えてくれた。
「すでにお伝えはしてあると思いますが、夏休みの間は、拓真さんのお宅から、スタジオに通っていただく生活になると思います」
(経験あることなら、湊に何を聞かれても、パッと答えられたけど、これからはそうもいかないだろうからな……私も一緒になって学んでいかないと……)
「あのー……映画って、すぐ撮影できるわけではないんですね?」
「ええ。特に『咲て散らん』は、京都ロケが中心になりますから。まずはこちらで本読みと、所作の練習を重ねてから、やっと撮影という流れになりますね」
「きょ、京都!?えっ、そんな遠くまで?」
思わずギョッと驚いて、シートから腰をわずかに浮かす。
「ねえさん、危ない」
「そうだ。これはダメだね」
同じデニム生地のオーバーオールという格好をした小さな身体に、大の大人が過ちを正されている。
背後から聞こえるみっともない私の声に、根本マネージャーは耐えきれなくなったように、笑いを豪快に噴き出した。
「……ぷはっ……あっ、すみません」
「いえ、もはや、笑っていただいたほうが……」
湊のおっしゃる通りと、ただちに腰を下ろした私は、苦笑いを浮かべながら、苦し紛れにそうお願いした。
「……あはははっ、いやいや、確かに、知らない人はびっくりしますよね。でも時代劇では、よくあることなんですよ」
「へえ〜」
すると、私たちを乗せた車の動きが突然止まった。カーウィンドウの外に目を向けると、緑が茂る目の前の景色のずっと奥に、七階建ての中層マンションが見えた。
私と湊は揃いも揃って、口をあんぐりと開けながら、初めて目にする光景を車の中から、ただ時間も忘れたように眺めていた。
「こちらが、柳生さんのお宅のカードキーです」
ずっと前だけを見て運転してくれていた根本マネージャーが、後部座席に座る私たちに黄金色のカードキーを差し出しながら、今見ている景色が確かに現実であると教えてくれる。
「あっ!はい!じゃあ、後ろの荷物取ってきますね」
カードキーを受け取ると、一度外へと出て、ラゲッジスペースに乗せたダンボール箱を取りに行く。
その間に湊も根本さんに抱きかかえられ、車から降りてきていた。
「湊?忘れ物ない?」
「うん。だいじょーぶ」
でも根本さんは、一人で車の中へと戻っていく。
「あれ?根本さんは降りないんですか?」
「私はあくまでも、湊くんのマネージャーですので……じ、じゃあ、あとは頼みましたよ……!」
根本マネージャーは最後まで言葉を言い切る前に、大きなワゴン車を発車させた。まるで、私が喋り始める前に立ち去ってやろうという、強い意志を感じるようだった。
(えっ、ちょっ……何もそんな、逃げるように行かなくても……)
あっという間にエンジン音は聞こえなくなり、閑静な住宅街の中に静けさが戻ってくる。
湊と共に、知らない道のど真ん中にポツンと取り残され、とにかく、もう一度あのずっと奥にある建物を見てみた。
青々とした大きな空に向かって、そそり立つビルとは違い、真上にドンと座る太陽の光がしっかりと差し込むように、歪な形をしている。
自然の緑も人々の隣に寄り添うように、我々のすぐそばにも広がっている。
いつもなら、こうしている間にも、湊が私の手をグイグイと強い力で、引っ張っていくであろう。
でも、今日は二箱のダンボール箱を抱えているせいで、手を繋ぐこともできないから、暑さ対策のための帽子を深くかぶり、ただ隣で私が動き出すのを待っている。
日差しを遮るものが何もなくなった今、玉のような汗まで流れ落ちてきた。
(この暑さは、非常に危険だ……)
「湊。ひとまず、建物の中入ろうか」
「うん。そうしよう」