たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
本当はそう言い返したくて堪らないけれど、私はそれ以上、拓真を追及することはできなかった。

これ以上、この話を続けてしまえば、私たちの関係がもっと複雑なものになりかねないと思ったから。

すると、気まずい沈黙から我々を救い出すように、エレベーターが到着した合図が鳴る。

でも、開いたドアの向こうには、もっと気詰まりするような空気が流れていた。

スニーカー裏と絨毯が触れ合う、わずかな音さえ、通路内に響いてしまう。その強烈な静けさは、他のどの場所にもない特別なものだった。

普段どちらかと言うと、おしゃべりさんな私ですら、その静かさに身が強張って、言葉も喉の奥で詰まってしまうくらいだ。

一方の拓真は、慣れた様子で一つの住戸の前まで案内すると、ずっと抱きかかえていた湊を、初めて腕の中から降ろした。

ポケットから黄金色のカードを取り出し、そのカードで部屋を開錠してみせる。

(あっ、こうやって開けるのね。了解了解)

私がその手順を必死に覚え込ませている間に、ハンドルをガチャリと下げ、手前に向かって、ギーッと音を立てながら引き寄せた。

そして、ウッドドアが閉まらないように片手で押さえたまま、合図するように、湊の背中にポンと手を置く。

湊は、そのまま何のためらいもなく、中へと入っていった。でも、私はそれ以上、踏み出すことができなかった。

(なんか……暑すぎない?)

拓真は私の方をじっと見ながら、痺れを切らしたように急かしてくる。

「なんだ?入らないのか?」
「……いや、入るけどさ?」

私はまだ自分の身体で感じる違和感を信じられなくて、恐る恐ると敷居を跨ぐと、背後からドアの閉まる音が聞こえた。

外から流れる涼しい風が封じられた今、全身で感じる異常な暑さは明確だ。

(……この人、正気?)

「ねえ、クーラーつけた?」
「え?そりゃあ、もちろん」

「本、読みながらとかではなく?」
「だから、つけ………、あっ……」

勢いづいていた声が、何かに気づいたように口ごもる。

そんな拓真を無視し、私は律儀に用意されていたスリッパにさっさと履き替えて、長い長い廊下をドカドカと音を立てながら、踏みしめていく。

「ちょっ、おいっ……」

そして、目の前にあらわれたドアハンドルを、思いっきりひねりながら、力いっぱいに引いてみせた。

すると、白と黒で統一されたその部屋は走り回れるほど広くて、晴れやかな空間なはずなのに、そこに停滞していた空気は暗くて、蒸さ苦しくて、とても不快なものだった。

ドアのそばにあるスイッチがすぐに視界に入り、私は真っ先に明かりと空調をつけた。

「……まさか、この部屋にずっといたとか言わないよね」
「いや、これは……」

「こんな暑いのに、気付かなかったの?」
「……ああ」

「他の部屋は?」
「……つけっぱなしだ」

「はあ……ちょっと、窓開けるよ」

私は背を向けたまま、刺々しくそう言うと、窓に向かって歩き出して、ますます拓真と距離を取った。

尋常じゃない暑さからか、私は無性にむしゃくしゃしていた。

私が来なかったら、拓真とまたこうして話せていたかすら分からない。

もうこれ以上、大切な人を、うかうかと、失いたくないのに……。

私はまた刺々しい言葉で、釘を刺そうと振り向く。

「柳生さん。さすがにおかしいよ」
「……ああ。ほんとにな」

ずっと背後から聞こえていた決まりが悪そうな声は、本物だったようだ。

部屋の中心にある黒大理石のローテーブに外したメガネを置き、コの字に並べられた白のソファに腰かけると、俯きながら目頭を押さえだす。

机には読みかけの本たちがあちこちに散らばっていて、座面にはクッションが乱雑に放置されていた。

(本、メガネ。そっか、そういうこと……)

私たちがここに来るまで、拓真がどんな行動を取っていたのかが鮮明に見えてきて、もう鋭い言葉で攻め立てるのはやめにした。

「部屋から出る前に普通気づくでしょ……やっぱり急いできてくれたんじゃないの?」
「……だから、それは」

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