たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「良いもん。これだけ証拠揃ってて、まだ戦えるなら、私も受けて立つよ」
腰に手を当てて、威張ったようにそう言ってみせた。すると、遠くから湊のいつになく興奮した声が聞こえてくる。
「ねえさん!本が!いっぱいあるよ!」
「………一時休戦だ」
拓真は湊の声が聞こえる部屋へと逃げるように移動していく。私もその背中に揶揄いながら着いていった。
「うわー、逃げたー」
「逃げていない」
「反省してる?」
「……しつこい」
新たな部屋に入ろうとした途端、拓真が突然振り向くから、ぶつかりそうな距離に顔があって、反射的にのけぞってしまう。
拓真は涼しい顔でまた背を向けるのに、私の身体は一瞬わけがわからなくなるみたいに固まって、周囲の音も不思議と遠くなった気がした。
「ねえさん、ねえさん?」
だんだんとはっきりしてきた幼い声に、ハッとして、私も湊のそばへと駆け寄る。
「ん?どうした?」
湊が見上げる視線の先に私も目を向けると、首が後ろに倒れるほど高さのある本棚が、涼しい部屋を囲うようにして置かれていた。
「これ、全部、父ちゃんの本?」
「ああ……本、好きか?」
「うん!大好き!」
「そうか……読んでやろうか?」
「読むっ!!」
(まだ、仕事途中だったみたいだけど……)
「……良いの?仕事」
「どうせ、俺も読む。『咲て散らん』の時代の本だと……そうだな、これなんかは……」
もう二人だけの空気に私の入る場所なんてなくて、並んだ背中を微笑ましく見ながら、私はそっと部屋から離れた。
その間にムンムンとした熱気がこもっていたリビングには、外から開放的な空気が流れ込んできていて、開けっぱなしの窓もやっと閉めることができた。
ようやく人間が過ごすのに適した空間になった今、私にはこの広い部屋をじっくりと見渡す時間が生まれた。
手垢ひとつない大きな窓ガラスの向こうには、緑溢れた中庭が望めるテラスがあり、部屋の壁は白一色で覆われている。
昔の記憶がすぐにでも戻ってくるような、使い込まれた木の温もりの中で過ごしてきた私には、その何にも染まっていない新しさの中では、ただ止まっているのさえ、むず痒く感じた。
(……そうだ、ダンボール)
まずは持ってきたダンボールを片付けてしまいたくて、拓真にどの部屋を使ったら良いのか聞こうと、二人の邪魔をしないように、またそーっと書斎に戻った。
でも、部屋へいくら近づいても二人の気配が感じられなくて、不思議に思いながらドアを開けると、振り向いた拓真と目が合った。
私が話し出そうと息を吸うと、拓真が人差し指を自分の口へと近づける。
「……シー」
「ああ……寝ちゃった?」
私は静かにそう返事をしながら、拓真のそばに近づくと、小さな身体があぐらの上に座りながら、頭をこくこくとさせていた。
一旦、床にダンボールを下ろして、今にでも落っこちそうな湊の頬を受け止めるように、スリスリと撫でる。
「普段はあんまりお昼寝しない子なんだけど。今日、たくさん歩いたからなあ」
「お前は?」
「……えっ?私?」
その潜めいた声が、なぜかとてつもなく優しく感じて、ふと心の荷を下ろしそうになってしまう。
「私のことなんて、どうだって良いんだよ。ほら。リビングまで、湊運ぶよ」
そして、何かから逃げるように、小さな身体に手を伸ばそうとした。
でも、拓真は湊を抱きかかえながら立ち上がり、足元のダンボールに目を向けながらこう聞いてくる。
「何か、用あったんだろ?」
「あっ、そうだ!荷物。どこ置いたら良い?」
「……ついてこい」
腰に手を当てて、威張ったようにそう言ってみせた。すると、遠くから湊のいつになく興奮した声が聞こえてくる。
「ねえさん!本が!いっぱいあるよ!」
「………一時休戦だ」
拓真は湊の声が聞こえる部屋へと逃げるように移動していく。私もその背中に揶揄いながら着いていった。
「うわー、逃げたー」
「逃げていない」
「反省してる?」
「……しつこい」
新たな部屋に入ろうとした途端、拓真が突然振り向くから、ぶつかりそうな距離に顔があって、反射的にのけぞってしまう。
拓真は涼しい顔でまた背を向けるのに、私の身体は一瞬わけがわからなくなるみたいに固まって、周囲の音も不思議と遠くなった気がした。
「ねえさん、ねえさん?」
だんだんとはっきりしてきた幼い声に、ハッとして、私も湊のそばへと駆け寄る。
「ん?どうした?」
湊が見上げる視線の先に私も目を向けると、首が後ろに倒れるほど高さのある本棚が、涼しい部屋を囲うようにして置かれていた。
「これ、全部、父ちゃんの本?」
「ああ……本、好きか?」
「うん!大好き!」
「そうか……読んでやろうか?」
「読むっ!!」
(まだ、仕事途中だったみたいだけど……)
「……良いの?仕事」
「どうせ、俺も読む。『咲て散らん』の時代の本だと……そうだな、これなんかは……」
もう二人だけの空気に私の入る場所なんてなくて、並んだ背中を微笑ましく見ながら、私はそっと部屋から離れた。
その間にムンムンとした熱気がこもっていたリビングには、外から開放的な空気が流れ込んできていて、開けっぱなしの窓もやっと閉めることができた。
ようやく人間が過ごすのに適した空間になった今、私にはこの広い部屋をじっくりと見渡す時間が生まれた。
手垢ひとつない大きな窓ガラスの向こうには、緑溢れた中庭が望めるテラスがあり、部屋の壁は白一色で覆われている。
昔の記憶がすぐにでも戻ってくるような、使い込まれた木の温もりの中で過ごしてきた私には、その何にも染まっていない新しさの中では、ただ止まっているのさえ、むず痒く感じた。
(……そうだ、ダンボール)
まずは持ってきたダンボールを片付けてしまいたくて、拓真にどの部屋を使ったら良いのか聞こうと、二人の邪魔をしないように、またそーっと書斎に戻った。
でも、部屋へいくら近づいても二人の気配が感じられなくて、不思議に思いながらドアを開けると、振り向いた拓真と目が合った。
私が話し出そうと息を吸うと、拓真が人差し指を自分の口へと近づける。
「……シー」
「ああ……寝ちゃった?」
私は静かにそう返事をしながら、拓真のそばに近づくと、小さな身体があぐらの上に座りながら、頭をこくこくとさせていた。
一旦、床にダンボールを下ろして、今にでも落っこちそうな湊の頬を受け止めるように、スリスリと撫でる。
「普段はあんまりお昼寝しない子なんだけど。今日、たくさん歩いたからなあ」
「お前は?」
「……えっ?私?」
その潜めいた声が、なぜかとてつもなく優しく感じて、ふと心の荷を下ろしそうになってしまう。
「私のことなんて、どうだって良いんだよ。ほら。リビングまで、湊運ぶよ」
そして、何かから逃げるように、小さな身体に手を伸ばそうとした。
でも、拓真は湊を抱きかかえながら立ち上がり、足元のダンボールに目を向けながらこう聞いてくる。
「何か、用あったんだろ?」
「あっ、そうだ!荷物。どこ置いたら良い?」
「……ついてこい」