たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「……寝たか?」
「えっ?」

その声に答えるように振り向くと、柵に肘をかける拓真と、視線がぶつかった。

「ああ、うん。もうぐっすり」

しかも、なぜかぶつかったまま、目を逸らそうとしない。

(ん?やっぱり、なんか用があるのかな?)

私は一歩だけ近寄って、これ以上開かない窓を押すように寄りかかりながら、話を聞く姿勢を見せた。

すると、拓真から思ってもみない言葉をかけられた。

「……ありがとう」

(……え?えーっと?何に対してのありがとう?)

全く理解できていない私は、ぽかーんとした顔を浮かべていた。

その顔を見ると、拓真は腹を決めるように、手に持つビール缶を傾けた。

ゴク、ゴクと喉を鳴らしながら、息が続く限り、身体に流し込む。

そして、溜めた息を一気に吐き出すと、その缶をじっと見つめながら、ぽつりぽつりと話を続けた。

「はぁ……昔っから一つのことに入り込んだら、大事なもんが見えなくなる。こればっかりは、どうにもならないな」

目の前には木々が生い茂り、外との一切のつながりが隔絶されている。

聞こえてくるのは、缶をコツン、コツンと指先で突く、不揃いな音の粒だけだ。

このとき初めて、真っ正面から拓真が自分から見せようとしなかった部分を、はっきりと見せてもらった気がした。

もう見て見ぬ振りなんてしてる場合じゃない。

「……あのさ……私、柳生さんの分もやろうか?」

軽い提案のつもりだった。
でも、拓真はやけに真っ直ぐこっちを見てくる。
だから、私の心もどんどんふらついていく。

「いや、別に自分でやるってなら、全然それで良いんだけどさ……」

すると、拓真からいきなり、こんなことを聞かれた。

「……お前、酒、飲めたっけ」
「えっ?お酒?ま、まあ、よく飲むけど」

完全に流されるがまま、そう答えると、拓真は柵の上に自分のビール缶をポンと置いた。

そして、その隣に並べられたもう一つのビール缶を、プシュッと音を立てて、開けてみせる。

新しく開けた方は、なぜか、私に向かって差し出された。

「……じゃあ、これでおあいこってことで、良いか?」

(まあ、借りを作りっぱなしってのも、気に障るか……)

私はすべてを飲み込んで、もう一歩だけ前に出ると、そのビール缶を素直に受け取った。

そして、もらったものを、乾杯と言わんばかりに、顔の前に掲げると、もうそれ以上は留まらない。

私は、自分のやるべきことに意識を移した。
一通りの家事を終わらせて、もう一度リビングに戻る。

すると、拓真は日が昇るとか、日が落ちるとか、関係ないと言わんばかりに、また文字の世界に入り込んでいた。

そんな彼には、もうどんな物音も届くことがないと、知っている。
だから、静かに、とかそんな余計なことは考えず、ただその部屋から出て行った。

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