たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真は自由が効く方の腕を顔へと近づけて、今の時間を確認した。

すると、そのまま私の腕を引き、どこかへ向かってスタスタと歩いていく。

「……悪いけど、次も早いんだ」

(え、えっ?どこに?)

そして、されるがままに、その後ろをついていくと、なぜかソファの前に到着した。

拓真はその上に全身を乗せ、肘掛けを枕代わりに、後ろへと倒れる。

片膝は軽く曲げ、がっちりとした腕で視界を閉ざす。
今にでも寝ますというような姿勢だ。

さて。

私は立ったまま、その人と、自分の腕に巻き付いた、血と汗滲む豆だらけのごつごつとした指を、交互に見下ろす。

(あれ……?私は、何をするんだっけ?)

そんな答えどこにもあるはずがない。
教えてもらってないんだから。

ようやく気づいた私。

「ちょ、ちょっと待って!」
「……ん?」
「それで?私は何をしたら良いの?」

すると、今度はしっかり私にも分かるように、指示をくれた。

「喋ってくれるだけで十分だ」
「……し、喋る?」

喋るならこのまま立っているわけにもいかない。

ソファに背を向けながら、膝を抱える。

(でも、喋るっていったって……何を……)

もう回るはずのない頭の中を、どうにか働かせていると、拓真の声がそこに入ってくる。

「お前と話してると、なぜか難しいことを忘れられる」

(えーっと?それは?チクチク言葉じゃないよね?)

私の頭はその声にまたごちゃごちゃするだけだ。

結局、もうない頭から無理に見つけ出すのはやめた。すべて視覚に押し付けて、周囲を見回す。

(何か、話の材料は……)

「あっ!いつも寝室じゃなくて、こっちで寝るんだ?」
「ああ。寝ようと思うと余計に考え込むだけだからな」

「……でもさ、ほら!今からでも湊の隣で」
「ここが一番寝やすい」

「あっ……そうですか……」
(えっ?どうすんの?話、終わっちゃったよ?)

食い気味に拒否られて、私はもうそれ以上言える言葉をなくした。

静けさを賑やかさで隠すのなんて、私にとってお安いご用のはずだ。

なのに「喋れ」と言われると、途端に頭が働かなくなる。

いや、違う。

さっきから頭を働かせようとすると、「そうじゃない」って、心がザワザワ騒ぐんだ。

あの目、あの話しぶり。
拓真からのSOSに決まってる。

そりゃあ、苦しみを、賑やかさでかき消せたら、どんなに楽だろう。

所詮、人と人。

それが、どんな重さなのか、どんな痛みなのか、その人にしか分かるはずがない。

むやみに突かなければ、その人の傷が抉られることもないんだから。

でも、そのSOSまで一緒に見逃してしまったら?
そんなの、その人を潰してしまうだけだ。

母さんがいなくなった後。

私は、一番近い場所にいながら、保身に走った。そして、そのツケもちゃんと回ってきた。

人間一度ミスをしたら、簡単に同じ失敗は繰り返さない。こうやって、ダメだ!って内側から、騒ぐ声がするから。

腕にしがみついた指が、微かに動く。
私の身体は、すぐにビクっと振り返る。

やっぱり表情は見えない。
だから、また背を向ける。

そうやって、静けさを受け入れている。

すると、後ろから聞こえてきたのは、苦しみだけじゃない、なんというか凄く、彼らしい言葉だった。

「俺はさ、本当に好きなだけなんだよ。この仕事が。だから、空白をつくるのが、極端に怖いんだろうな」
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