たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
「空白?」
「いつか、必要とされなくなるんじゃないか。ってな」

私の瞳には、さっきからずっと、ローテーブルの上に積み重なった本の山が映っている。

別に、その場しのぎの慰めとか、励ましなんかじゃない。どう考えても、その言葉は全力で否定していいものだ。

気づいたら背を向けることもやめて、食いかかるような勢いで、こう訴えていた。

「こんなに頑張ってる人が、何を言って!」
「いや。実際、俺がいるのはそういう世界だ。必要のあるものだけが残る」

拓真はいつだって冷静だ。
そんな私の熱のこもった言葉も、絶対に受け取ろうとはしない。

「だから、ぼうのことだって反対してた。やっぱり、自分の意志でやるからには、犠牲にしなきゃならないものも多いからな」

いくら突き返されたって私にも譲れないものはある。どうせ向こうからは、何も見えていない。

今度は拓真にグッと近寄って、より強く否定を繰り返す。

「いや、だから、それも違うんだって!湊だって心から!」

拓真が急に目隠しを外した。

私の瞳には、虚なその目がはっきりと映る。

予定外の出来事に、頭はパンクする。
身体は固まる。言葉は止まる。

「わかってる。ちゃんとそばで見てきたんだから」

しかも、なぜか、その力のない目が、私には優しさに見えてしまう。

そのせいで心まで、パンクしそうになる。

私は耐え難くて、もう一度背を向けた。
私を守れる人は、私しかいない。
だから、また、賑やかさでかき消すしかなかった。

「そうだよ!今日もさ、所作の練習したんだーって。嬉しそうに話しててさ」

「まあ、練習といっても、その必要もなさそうだったけどな。座り方も、最初からちゃんとなってた」

拓真はやっぱりブレない。
私がどうなろうと、ずっと一定の温度だ。

「でしょー?あの子の姿勢、ほっんといつ見ても綺麗なんだよ。お寺でね、月一の座禅会があるんだけど」

湊のこととなると、私はこうしてどこまでも、ルンルンで言葉を走らせられる。

「湊が背中叩かれてるところなんて見たことないもん。私はベチベチ容赦なく食らうんだけどね……あははっ……」

でも一度立ち止まると、拓真を一人、置いてきぼりにしていたことに気づいた。

ハッとして、後ろを振り返る。

すると、またあの夜みたいに、拓真の上下の睫毛は、ぴったりと重なり合っていた。

(……えーーっと?これは?どういうからくり?)

力の抜けた寝顔を見て、今日の私はこう思う。

彼にはこのまま絶対に夢なんて見させないでほしい。

すべてを忘れて
すべてをここに置いて
深い眠りについていてほしい

こういう気持ちになったとき、どうするべきか、私の身体にはもう染み付いている。

だから、どうしよう、こうしようと、頭で考えなくても、勝手に身体が動き出す。

か弱い力になった指先をそーっと腕から離し、部屋の電気を消す。そして寝室にあるブランケットを持って、また拓真のいる暗がりに戻ってくる。

湊用のブランケットだから、やや目の前の大男には、物足りない感も否めない。

もうどれだけ近づいたって、私の鼓動は忙しなくならない。どちらかと言うと、それとは真逆。

そこにずっとあるのは、胸のつかえが取れて、ホッと一息つきたくなるような、安心感だ。

まるで湊に抱く感情と一緒だった。
そう。私はこうでなきゃ。
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