たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
二人は動きまで見事にシンクロする。
そこに立っていたのは、湊だった。

「うわーん!!」

湊は私たちを見つけると、身体中の力全部を使い切るように、顔を真っ赤にして泣き始めた。

真っ先に、拓真と顔を見合わせる。
「行ってこい」と言われたような気がした。

私はすぐに、定位置になったこの席から立ち上がり、湊のそばに駆けつけた。

部屋にも入らず、泣き続ける湊を抱き上げて、思いっきり甘やかす。

「ごめんごめん。誰もいなくてびっくりした?」
「ぐすん……ぐすん……う、うん」

すると湊は安心したのか、泣き声をぴたりと止めた。

肩で息をしながら、目をしばしばさせる。
くりくりお目目から落っこちた大粒の涙が、ふっくら赤い頬の上でぽとんと止まる。

私は、親指でそれをそーっと拭う。

「ねえさんがあっちでお歌歌ってあげるよ。ね?」

私は湊を抱いたまま、寝室に向かって歩き出した。でも、私のとは違う、別の足音まで、後ろから聞こえてくる。

振り向かなくても、見送ってくれたはずの、その人のものとしか考えられない。

「……もしかして、ついてきてる?」
「気になるだろ。小濱さんの歌」

(小濱さん、ねえ……さっきまで、お前。だったくせに)

別に拓真は何もおかしなことを言っていない。
なのに私は、なぜかモヤっとする。
それが声にもあらわれる。

「……本気で言ってんの?」
「ああ」

でも返ってくる声には、また何の揺らぎもない。
それに、またモヤっとする。

かと言って、そのおかしなモヤモヤを、吐き出せるわけもない。

だから私は、深いため息をつく。

そうして寝室の前に着くと、ドアはちゃんとぴったり閉まっていた。

一旦、片手を自由にしたい。
湊のことを抱き直そうとした、そのとき。

身体はかちこちに固まった。

肩が跳ね上がったまま、上下を忘れている。

背中から、頭のてっぺんから、拓真の存在を感じたから。

「……どうした?」

私は勝手に開いたドアの前で、意味もなく立ち止まっている。

でも、もう、こんなブレと向き合う時間はつくらない。そのおかげでこの毎日があるんだから。

だから、ただ、真っ直ぐとベッドに向かう。

湊の身体をベッドの上に預けると、自分もその隣に寝転がる。

余計な空白はひとつもつくらない。

トントンと小さな身体を叩くリズムに合わせて、取り急ぎ子守唄を歌い出す。

「ねーむれー、ねーむれー」

何も考えない、何も感じない。
まるでお経を読む修行僧にでもなったような気分で。

「……ねえさん?今日のお歌、少し怖いよ?」
「えっ?」

でも湊には、そんな心のブレもバレバレだったみたいだ。

すると、拓真まで部屋にも入らず、腕を組みながら、心底不快そうな顔で、こう嘆いてくる。

「……ああ、なんとも、残念な歌唱だな」
(はい?残念?勝手についてきて?)

もちろん、私の積もり積もったモヤッは、プッツーンとすべて弾け飛んだ。

こうなってしまえば、喧嘩勃発だ!

「じゃあ、柳生さんもやってみなよ」

もちろん本当にやりはしないけど、こんなの手招くポーズで、相手を煽り立てているみたいなものだ。

でも、すべてが空振りに終わった。
喧嘩なんて一つも始まらなかったから。

拓真は、湊の顔が一番見える位置であぐらをかく。そしてぼやきの一つも垂れず、同じ歌を歌い出す。

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