たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
そんなタイミングで、湊の声が聞こえてきた。
「父さーん!水、止まったんだけど!どうしたらいいのー?」
(チ、チャンス!今だ!)
私はどさくさ紛れで、その笑顔に、背を向けた。
「ほら、父さん!呼ばれてるよ」
「お、おう!!」
父さんはまた急いで、湊の元に戻っていく。
するとタッチの差で、今度は、はじめ先生が火の周りにやってきた。
人が変われば、話も変わる。
「あら?そう言えば、はじめと拓真は、今日が初めてよね?」
(ふぅーー……耐えた耐えた)
私はしれっと、父さんに渡しそびれたお皿を、はじめ先生に受け取ってもらう。
「あれ?はじめ先生、宇佐見さんたちとも面識が?」
「はい。みなさんとは何度か、お酒を……」
(ああ。飲み友ってやつね……)
すると、拓真はちょうど向かい側にいるはじめ先生に、手を差し出した。
「ご挨拶遅れました。柳生拓真です」
「……どうも。湊の担任です」
でも、はじめ先生は名乗らない。
手も出さない。
ただ不機嫌そうに頭を下げただけ。
(あれ?はじめ先生、どうしたんだろ?)
そのまま二人は、ずっと目をぶつけ合っている。
私は、右と左を交互に見返す。
結局、先に動いたのは拓真だった。
腕を、ゆっくりと下げた。
(ん……??)
はじめ先生はこんな無礼な人じゃない。
だから全員の視線も一人に集中する。
「あらら。はじめが、そんな態度取るなんて珍しいわねえ」
すると、はじめ先生は、拓真を睨みつけたまま、こう言った。
「見極めにきたんです。本当に節操のあるやつか」
拓真は、その言葉に、眉を潜めた。
「……節操、ですか?」
「万が一、いや、億が一にも、二人に何かあっては、湊が板挟みになりますからね」
そうして、言葉が消えた。
私の真上では、まだ二人の目がバチバチと、火花が散るようにぶつかり合っている。
(……いや!おかしい、おかしい!)
私は、また、きっぱり言葉を訂正するためだけに、息を吸い込む。
そのとき、宇佐見さんが、あーんと肉を頬張りながら、こう口を挟んだ。
「あのねえ。この子たち、生まれた日、生まれた場所まで一緒なのよ。もうね、そんな次元じゃないんだって」
(えっ……?)
その一言で、私の世界はガラッと変わった。
だって、今日の今日まで、そんなちっぽけなこと、宇佐見さんの記憶から消えてしまっているんだと、本気でそう思っていたから。
「宇佐見さん……それを知ってて?」
「そんなの当たり前じゃない」
でも、咀嚼をしながら、あっさりそう答えられてしまう。
「じ、じゃあ、どうして?」
すると、宇佐見さんは、口の中のものを、しっかりと飲み込んだ。
そして、こう話を続けた。
「バカねえ……最初にそれを言ってしまったら、湊を真っさらな目で見てもらえないってことになるでしょ。私は監督に、湊という人間そのものを見てほしかったのよ」
(真っさらな、目……)
その言葉が私の肩にずしりと重くのしかかった。
煙っぽい空気も、途端に受け付けなくなる。
楽しげな笑い声まで、だんだん遠くなっていく。
これだけは分かる。
私の身体は、もう、まともに働いていない。
「……鈴子!肉!焦げてるわよ!」
「えっ?」
宇佐見さんから、そう喝を入れられ、私はやっと正気に戻る。
そこには灰まみれの肉の塊が一つ、寂しくころがっていた。
心の片隅に、大事に大事にしまっておいた、あの頃の記憶まで、こんな風に、黒く塗り潰されていく。
「ほんっと、あんたも休める時に休んどきなさいよ?」
「あっ、あはは、大丈夫ですって!」
あれ?笑い方って、こうで合ってるっけ?
おかしい。
また。
また、分からなくなった。
隣を見る。
さっきと何も変わらない。
感情のない顔でビールを流し込んでいる。
(それも、そっか……)
それは、当然の話だ。
彼が汚したくない、綺麗に残しておきたいと思う感情は、もっと別のものに向けられるものなのだから。
なのに、それを教えてもらった今でも、私はまだこんな話をされただけで、粉々になってしまう人間のままらしい。
だからこそ、みんなが居てくれた今日、話題に上がって良かったとも思った。
だって、たくさんの笑いの中に、引き攣った笑顔も紛れ込むことができるから。
この話題からはどうやっても逃れられない。
それが、私たちの人生だから。
「父さーん!水、止まったんだけど!どうしたらいいのー?」
(チ、チャンス!今だ!)
私はどさくさ紛れで、その笑顔に、背を向けた。
「ほら、父さん!呼ばれてるよ」
「お、おう!!」
父さんはまた急いで、湊の元に戻っていく。
するとタッチの差で、今度は、はじめ先生が火の周りにやってきた。
人が変われば、話も変わる。
「あら?そう言えば、はじめと拓真は、今日が初めてよね?」
(ふぅーー……耐えた耐えた)
私はしれっと、父さんに渡しそびれたお皿を、はじめ先生に受け取ってもらう。
「あれ?はじめ先生、宇佐見さんたちとも面識が?」
「はい。みなさんとは何度か、お酒を……」
(ああ。飲み友ってやつね……)
すると、拓真はちょうど向かい側にいるはじめ先生に、手を差し出した。
「ご挨拶遅れました。柳生拓真です」
「……どうも。湊の担任です」
でも、はじめ先生は名乗らない。
手も出さない。
ただ不機嫌そうに頭を下げただけ。
(あれ?はじめ先生、どうしたんだろ?)
そのまま二人は、ずっと目をぶつけ合っている。
私は、右と左を交互に見返す。
結局、先に動いたのは拓真だった。
腕を、ゆっくりと下げた。
(ん……??)
はじめ先生はこんな無礼な人じゃない。
だから全員の視線も一人に集中する。
「あらら。はじめが、そんな態度取るなんて珍しいわねえ」
すると、はじめ先生は、拓真を睨みつけたまま、こう言った。
「見極めにきたんです。本当に節操のあるやつか」
拓真は、その言葉に、眉を潜めた。
「……節操、ですか?」
「万が一、いや、億が一にも、二人に何かあっては、湊が板挟みになりますからね」
そうして、言葉が消えた。
私の真上では、まだ二人の目がバチバチと、火花が散るようにぶつかり合っている。
(……いや!おかしい、おかしい!)
私は、また、きっぱり言葉を訂正するためだけに、息を吸い込む。
そのとき、宇佐見さんが、あーんと肉を頬張りながら、こう口を挟んだ。
「あのねえ。この子たち、生まれた日、生まれた場所まで一緒なのよ。もうね、そんな次元じゃないんだって」
(えっ……?)
その一言で、私の世界はガラッと変わった。
だって、今日の今日まで、そんなちっぽけなこと、宇佐見さんの記憶から消えてしまっているんだと、本気でそう思っていたから。
「宇佐見さん……それを知ってて?」
「そんなの当たり前じゃない」
でも、咀嚼をしながら、あっさりそう答えられてしまう。
「じ、じゃあ、どうして?」
すると、宇佐見さんは、口の中のものを、しっかりと飲み込んだ。
そして、こう話を続けた。
「バカねえ……最初にそれを言ってしまったら、湊を真っさらな目で見てもらえないってことになるでしょ。私は監督に、湊という人間そのものを見てほしかったのよ」
(真っさらな、目……)
その言葉が私の肩にずしりと重くのしかかった。
煙っぽい空気も、途端に受け付けなくなる。
楽しげな笑い声まで、だんだん遠くなっていく。
これだけは分かる。
私の身体は、もう、まともに働いていない。
「……鈴子!肉!焦げてるわよ!」
「えっ?」
宇佐見さんから、そう喝を入れられ、私はやっと正気に戻る。
そこには灰まみれの肉の塊が一つ、寂しくころがっていた。
心の片隅に、大事に大事にしまっておいた、あの頃の記憶まで、こんな風に、黒く塗り潰されていく。
「ほんっと、あんたも休める時に休んどきなさいよ?」
「あっ、あはは、大丈夫ですって!」
あれ?笑い方って、こうで合ってるっけ?
おかしい。
また。
また、分からなくなった。
隣を見る。
さっきと何も変わらない。
感情のない顔でビールを流し込んでいる。
(それも、そっか……)
それは、当然の話だ。
彼が汚したくない、綺麗に残しておきたいと思う感情は、もっと別のものに向けられるものなのだから。
なのに、それを教えてもらった今でも、私はまだこんな話をされただけで、粉々になってしまう人間のままらしい。
だからこそ、みんなが居てくれた今日、話題に上がって良かったとも思った。
だって、たくさんの笑いの中に、引き攣った笑顔も紛れ込むことができるから。
この話題からはどうやっても逃れられない。
それが、私たちの人生だから。