たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
東京でのスケジュールをすべて終え、このバーベキュー会が、一つの節目になるはずだった。
「これで最後かー?」
日付が変わり、賑やかな会の名残も、たちまち元の日常へと戻っていく。
「うん。そうだねー」
それでも、まだこの家からは、なぜか酔っ払いのうるさい声と足音が、二人分聞こえてくる。
事の発端は、遡ること一時間前。
すっかり調子づいた飲み友たちが、小濱家で二次会をやろうと言い出したことだった。
私は、
とても一緒になって帰れる気分じゃなかった。
誰かから黒く塗り潰されるつもりなんて、微塵もない。そんなことされるくらいなら、自分で綺麗さっぱり流してしまいたい。
だから、今日はかなり無茶な飲み方をした。
頭はもう正常に働いていない。
自分が何を言い出すかもわからない。
もし、またあの話をされてしまえば、自分がどんな顔をするのか、気が気でなかった。
でも、拓真なら、絶対にあんな話はしない。
だって、そもそも拓真の中は、そんな発想すら浮かぶ余地がないほど、他のものでいっぱいだから。
だから、片付けがあるともっともらしい理由をつけて、みんなが寝ついた後にでも、こっそり私も元の日常に戻ろうと思った。
私が拓真と六年ぶりに会ったあの日。
あんなによそよそしい態度を取ったのは、心のどこかで、「もしかして、また……」という、おごり?みたいなものがあったからかもしれない。
でも、今なら分かる。
私がどんな大きな罪を犯しても、この人には相手にすらされない。
最悪、見なかったことにすらしてくれる。
そう、確信できたから。
外の風に当たりながら尻をつく拓真の隣に、安心し切って腰を下ろしにいける。
とりあえず、床に置きっぱなしだったビールを、身体の中へと流し込む。
力が抜けた視線の先には、線香花火セットがぼんやりと見えた。
ますます締まりのない顔になる。
やっぱり、花火って、いくつになっても、テンションが上がるものだ。
「ああー花火、残ってるじゃーん。せっかくだし、二人で使いきっちゃわない?」
「んっ、いいぞー」
拓真もプラカップを傾けながら、ぞんざいに言葉を返してくる。
そう。私はこの、なんてことない短い返事を、一番求めていた。
あんなことを他人から聞かれなければ、私の中にあるものは、何も汚されないで済むのだから。
残りわずかの線香花火セットから、中身すべてを引き抜き、そのちょうど半分を、拓真にあげる。
「……ん」
「おう。サンキュー」
もう、これが良いとか、あれが良いとか、そんなこと考えられる頭ではない。
それでも、花火の束から、どれにしようかな〜と、いかにも考えているような顔をして、一本選び取った。
その間に、拓真は、胸ポケットからライターを取り出してくれたみたいだ。
「火、つけるぞー」
「……ん。おねがーい」
カチッという点火音と共に生まれた、今にも消え入りそうな燈が、垂れる糸へと移る。
それは夏のそよ風に乗って、息を巻きながら、たちまちバチバチと散るような、力強い火花に変わった。
私は、なぜかその火花を、ずっと見ていたかった。
だから、落ちてくる瞼をこじ開けながら、ただ一点だけを見つめている。
「小さい頃は、花火、よくしたなあ。いまは、こんな新しいのとかも、あるんだねえ」
「なんだ。やけに歳を感じる感想だな」
「だって、うちらもう、30だからねー」
「そうか。30か」
そうこう喋っていると、拓真も、チャチャっと新たな火花をつくってみせた。
それは、やや衰えた私のものを淘汰するくらい、賑やかな火花だった。
「そりゃあ、見送ることも増えるわな」
「えー?拓真も感じるんだ。老い」
「そんなの当たり前だろ。生きてきた年月も一緒なんだから」
すると、私の散るような火花が、ついに萎んで、弱々しい燈へと変わっていく。
それは、ぽとりと地面に落っこちて、すぐに私たちの前からいなくなった。
「お前も、あるのか?」
「ん?そりゃあ、あるよー。湊もだんだん大きくなってきて、常に肩とかバッキバキだしさー」
両手が自由になった私は、自分の肩を揉みながら、日々感じる衰えを訴えてみせる。
「へえ、ちょっと見せてみろ」
「ん?良いけど、まーじでびっくりするよ?」
私は、見せつけるように背中を向けた。
すると右肩には、拓真の指が、あっさり乗っかってくる。
「これで最後かー?」
日付が変わり、賑やかな会の名残も、たちまち元の日常へと戻っていく。
「うん。そうだねー」
それでも、まだこの家からは、なぜか酔っ払いのうるさい声と足音が、二人分聞こえてくる。
事の発端は、遡ること一時間前。
すっかり調子づいた飲み友たちが、小濱家で二次会をやろうと言い出したことだった。
私は、
とても一緒になって帰れる気分じゃなかった。
誰かから黒く塗り潰されるつもりなんて、微塵もない。そんなことされるくらいなら、自分で綺麗さっぱり流してしまいたい。
だから、今日はかなり無茶な飲み方をした。
頭はもう正常に働いていない。
自分が何を言い出すかもわからない。
もし、またあの話をされてしまえば、自分がどんな顔をするのか、気が気でなかった。
でも、拓真なら、絶対にあんな話はしない。
だって、そもそも拓真の中は、そんな発想すら浮かぶ余地がないほど、他のものでいっぱいだから。
だから、片付けがあるともっともらしい理由をつけて、みんなが寝ついた後にでも、こっそり私も元の日常に戻ろうと思った。
私が拓真と六年ぶりに会ったあの日。
あんなによそよそしい態度を取ったのは、心のどこかで、「もしかして、また……」という、おごり?みたいなものがあったからかもしれない。
でも、今なら分かる。
私がどんな大きな罪を犯しても、この人には相手にすらされない。
最悪、見なかったことにすらしてくれる。
そう、確信できたから。
外の風に当たりながら尻をつく拓真の隣に、安心し切って腰を下ろしにいける。
とりあえず、床に置きっぱなしだったビールを、身体の中へと流し込む。
力が抜けた視線の先には、線香花火セットがぼんやりと見えた。
ますます締まりのない顔になる。
やっぱり、花火って、いくつになっても、テンションが上がるものだ。
「ああー花火、残ってるじゃーん。せっかくだし、二人で使いきっちゃわない?」
「んっ、いいぞー」
拓真もプラカップを傾けながら、ぞんざいに言葉を返してくる。
そう。私はこの、なんてことない短い返事を、一番求めていた。
あんなことを他人から聞かれなければ、私の中にあるものは、何も汚されないで済むのだから。
残りわずかの線香花火セットから、中身すべてを引き抜き、そのちょうど半分を、拓真にあげる。
「……ん」
「おう。サンキュー」
もう、これが良いとか、あれが良いとか、そんなこと考えられる頭ではない。
それでも、花火の束から、どれにしようかな〜と、いかにも考えているような顔をして、一本選び取った。
その間に、拓真は、胸ポケットからライターを取り出してくれたみたいだ。
「火、つけるぞー」
「……ん。おねがーい」
カチッという点火音と共に生まれた、今にも消え入りそうな燈が、垂れる糸へと移る。
それは夏のそよ風に乗って、息を巻きながら、たちまちバチバチと散るような、力強い火花に変わった。
私は、なぜかその火花を、ずっと見ていたかった。
だから、落ちてくる瞼をこじ開けながら、ただ一点だけを見つめている。
「小さい頃は、花火、よくしたなあ。いまは、こんな新しいのとかも、あるんだねえ」
「なんだ。やけに歳を感じる感想だな」
「だって、うちらもう、30だからねー」
「そうか。30か」
そうこう喋っていると、拓真も、チャチャっと新たな火花をつくってみせた。
それは、やや衰えた私のものを淘汰するくらい、賑やかな火花だった。
「そりゃあ、見送ることも増えるわな」
「えー?拓真も感じるんだ。老い」
「そんなの当たり前だろ。生きてきた年月も一緒なんだから」
すると、私の散るような火花が、ついに萎んで、弱々しい燈へと変わっていく。
それは、ぽとりと地面に落っこちて、すぐに私たちの前からいなくなった。
「お前も、あるのか?」
「ん?そりゃあ、あるよー。湊もだんだん大きくなってきて、常に肩とかバッキバキだしさー」
両手が自由になった私は、自分の肩を揉みながら、日々感じる衰えを訴えてみせる。
「へえ、ちょっと見せてみろ」
「ん?良いけど、まーじでびっくりするよ?」
私は、見せつけるように背中を向けた。
すると右肩には、拓真の指が、あっさり乗っかってくる。