たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
でも、私には、何かやらかしたという、自覚がまるでない。

「……あっ、えっ?私、何かした?」
「襖。声も聞かずに、開けただろ」
「……あ、ああ」

それ以上、言葉が出てこなかった。
自覚があったから。

もう強気じゃいられない。
視線が下へ下へ落ちていく。

「……気をつけます」

ずっと、下を向いたまま。

「はぁ……」

拓真のため息が聞こえてくる。
だから、ますます、顔を上げづらい。

すると、私の頭に、拓真の手のひらが。

私は、覚悟した。
ギュッと目を瞑る。

でも、痛みを感じることはなかった。

だから、ちょっとずつ、目を開く。

すると、手のひらはそのまま。
指先だけで、二回トントン。

困った声は変わらない。
でも、呆れが、優しさに、変わっていた。

「……この座組は、ただでさえ男が多いんだから。な?」

そして、私は、また固まった。

(なんで……なんで……逃げなきゃ!)

結局、最後まで、固まったまま。

手のひらが離れた。
ふっ、と頭は軽くなる。

「ん、じゃあ、ぼう。戻るか?」
「……うん!」

(……えっ?戻る?どこに?)

慌てて、顔を上げた。

もう拓真の手は、湊を抱いていない。
しきりに通路を覗きながら、掛け衿の乱れを直している。

「えっ、ちょっ、湊は?」
「次、女の番だろ。ぼうはこっちの部屋で見とくから、お前も入ってこい」

私は、考えた。

(他に、こんなお願いできる人……んんーー、いない、いないぞ……)

でも、拓真は、待ってくれない。
さっさと、部屋から出て行ってしまう。

だから、せめて、最後にこう伝えた。

「……あのっ!すぐ、迎えに行きますから!」

すると、拓真は、また顔を見せた。

「ぼうは、ちゃんと連れてくるから。お前は、ゆっくり入ってこい」
「……いや、そんな甘えっぱなしってわけには」

私は、まだ喋ってる。 
でも、拓真は、構わず近づいてくる。

そして、あの夜みたいに、手を取られた。

もう、言葉なんて話せない。
その手を、見ることしかできない。

「じゃあ、もう一回、俺のこと考えるために、使え。な?」

私は、その手を見つめたまま。
握り返すことは一度もなかった。

だから、拓真が離れていくと、力をなくしたように、ストンと落ちる。

私は、まだ、一人で、ボーっとしている。
でも、その先に、もう二人の手はない。

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