たい焼きの頭としっぽ〜歳の離れた弟を育てていたら、幼なじみの御曹司俳優までお世話することになりました〜
拓真は、毎日、部屋に来る。
もちろん、湊のお風呂のためだ。
滞在時間、わずか数秒。
会話は挨拶程度。
目も合わさない。
でも、私は、また誰かが、通ったら……と、毎回ハラハラ。
もう一度、きっぱり断らないといけないから?
それとも……?
そんなことを考えながら、今日もしきりに肩を揉む。
今いるのは、小さな町小屋。
たくさんのスタッフさんたちでパンパンだ。
右には、宇佐見さん。
「あら?そう言えば、鈴子。あんた毎日、タートルネックねえ」
左には、根元マネージャー。
「ほんとですね。暑くないんですか?」
うん。今日の凝りは、このせいかもしれない。
「いやー、全然?防寒、大事ですよ?」
そして、笑顔で、タートルネックを勧める私。
ーーウソである。
冷たい風もない。
何なら熱気がすごい。
正直、出来ることなら、今すぐ首から布を引きちぎってしまいたい。
ただ、そんなことをしてしまえば、私は社会的に死ぬ。
確実に、THE ENDだ。
それもこれも、すべてあいつのせい。
なのに、今は恨みようにも、その恨みをぶつける相手がいない。
だって「柳生拓真」ではない。
別の人間になってしまっているのだから。
平次と与助は、膝を、突き合わせている。
それぞれの前には、お米と焼き魚と味噌汁が、三角を描くように並べられた箱膳がある。
平次は、両手を袂に。
厳しい顔つきで、かっ込む子供を観察している。
すると、与助が突然咽せ込んだ。
「……んっ、ん」
茶碗の縁は、顔に引っ付いたまま。
口の端には、米粒が一つ。
やっと、落ち着いたみたいだ。
今は、茶碗から目だけを出して、向かいの様子を、おずおずと伺っている。
「……父と呼べ」
たった一言。
だけど、その一言には、全てを制圧するような、静かな凄みがある。
でも、与助には、関係ない。
ガシャガシャと、箸も茶碗もすべて置いて、立ち上がった。
「なぜです?そなたは、父ではあるまい」
平次は、動じない。
ずっと、同じ場所を見つめたまま。
「さようか。ならば、都へは拙者一人で参る」
床に手をついて、立ち上がった
また、両手を袂に入れ、足を浮かす。
でも、どれだけ力を入れても、前に出ない。
下を向くと、子供が膝をつきながら、小さな指で、着物の裾を引っ張っていた。
「お願いにございます!どうか、どうか、それだけは!」
与助の切実な叫びが、町小屋いっぱいに広がる。
私の耳も、突き抜けた。
心臓が、キュッと縮んだ。
でも、平次は、無感情でその子を見下ろす。
そして、また一言。
「……過ちは断じて許さぬ。よいな?」
カットがかかった。
拓真は、すぐ、顔の向きを変えた。
腕を組み、険しい表情の監督と、目だけで会話をしている。
監督は、首を横に振る。
拓真は、うなづいた。
でも、湊は、まだ着物を離さない。
ずっと、俯いている。
拓真も、そんな湊に気づいたみたいだ。
膝を曲げると、顔についた米粒を指で摘んで、自分の口に入れた。
「ぼう、どうだ?」
「……もう一回、やらせてほしい」
拓真は、うなづいた。
それ以上の言葉はない。
誰も、喋っちゃいけない。
ずっと、ここにあったのは、そんな空気。
小仁監督から指示が飛ぶ。
「っし!じゃあ、もう一回だ。みんな、準備頼むぞー?」
すると、たちまち熱気を取り戻す。
あちこちから声がする。
人の往来が激しくなる。
私も右肩を叩かれた。
手は、肩に置かれたまま。
「……鈴子」
宇佐見さんの声すら、もうよく聞こえない。
だから、耳を近づけ、私も腹から声を出す。
「どうしました?」
「私たち、これで、東京の方へ戻るけど。食事会だけ、しっかり頼んだわよ」
「大丈夫ですって。任せてください」
「……はははっ。そうね。あんたなら心配ないわね」
そして、二回、ポンポン。
手が離れた。
肩が軽くなった。
私はまた、タートルネックを、きっちり上げる。
もちろん、湊のお風呂のためだ。
滞在時間、わずか数秒。
会話は挨拶程度。
目も合わさない。
でも、私は、また誰かが、通ったら……と、毎回ハラハラ。
もう一度、きっぱり断らないといけないから?
それとも……?
そんなことを考えながら、今日もしきりに肩を揉む。
今いるのは、小さな町小屋。
たくさんのスタッフさんたちでパンパンだ。
右には、宇佐見さん。
「あら?そう言えば、鈴子。あんた毎日、タートルネックねえ」
左には、根元マネージャー。
「ほんとですね。暑くないんですか?」
うん。今日の凝りは、このせいかもしれない。
「いやー、全然?防寒、大事ですよ?」
そして、笑顔で、タートルネックを勧める私。
ーーウソである。
冷たい風もない。
何なら熱気がすごい。
正直、出来ることなら、今すぐ首から布を引きちぎってしまいたい。
ただ、そんなことをしてしまえば、私は社会的に死ぬ。
確実に、THE ENDだ。
それもこれも、すべてあいつのせい。
なのに、今は恨みようにも、その恨みをぶつける相手がいない。
だって「柳生拓真」ではない。
別の人間になってしまっているのだから。
平次と与助は、膝を、突き合わせている。
それぞれの前には、お米と焼き魚と味噌汁が、三角を描くように並べられた箱膳がある。
平次は、両手を袂に。
厳しい顔つきで、かっ込む子供を観察している。
すると、与助が突然咽せ込んだ。
「……んっ、ん」
茶碗の縁は、顔に引っ付いたまま。
口の端には、米粒が一つ。
やっと、落ち着いたみたいだ。
今は、茶碗から目だけを出して、向かいの様子を、おずおずと伺っている。
「……父と呼べ」
たった一言。
だけど、その一言には、全てを制圧するような、静かな凄みがある。
でも、与助には、関係ない。
ガシャガシャと、箸も茶碗もすべて置いて、立ち上がった。
「なぜです?そなたは、父ではあるまい」
平次は、動じない。
ずっと、同じ場所を見つめたまま。
「さようか。ならば、都へは拙者一人で参る」
床に手をついて、立ち上がった
また、両手を袂に入れ、足を浮かす。
でも、どれだけ力を入れても、前に出ない。
下を向くと、子供が膝をつきながら、小さな指で、着物の裾を引っ張っていた。
「お願いにございます!どうか、どうか、それだけは!」
与助の切実な叫びが、町小屋いっぱいに広がる。
私の耳も、突き抜けた。
心臓が、キュッと縮んだ。
でも、平次は、無感情でその子を見下ろす。
そして、また一言。
「……過ちは断じて許さぬ。よいな?」
カットがかかった。
拓真は、すぐ、顔の向きを変えた。
腕を組み、険しい表情の監督と、目だけで会話をしている。
監督は、首を横に振る。
拓真は、うなづいた。
でも、湊は、まだ着物を離さない。
ずっと、俯いている。
拓真も、そんな湊に気づいたみたいだ。
膝を曲げると、顔についた米粒を指で摘んで、自分の口に入れた。
「ぼう、どうだ?」
「……もう一回、やらせてほしい」
拓真は、うなづいた。
それ以上の言葉はない。
誰も、喋っちゃいけない。
ずっと、ここにあったのは、そんな空気。
小仁監督から指示が飛ぶ。
「っし!じゃあ、もう一回だ。みんな、準備頼むぞー?」
すると、たちまち熱気を取り戻す。
あちこちから声がする。
人の往来が激しくなる。
私も右肩を叩かれた。
手は、肩に置かれたまま。
「……鈴子」
宇佐見さんの声すら、もうよく聞こえない。
だから、耳を近づけ、私も腹から声を出す。
「どうしました?」
「私たち、これで、東京の方へ戻るけど。食事会だけ、しっかり頼んだわよ」
「大丈夫ですって。任せてください」
「……はははっ。そうね。あんたなら心配ないわね」
そして、二回、ポンポン。
手が離れた。
肩が軽くなった。
私はまた、タートルネックを、きっちり上げる。