サヨナラは、向日葵の香りがした。

第1話:0日目、放課後の再会

放課後の、誰もいない教室。
窓から差し込む西日が、埃をキラキラと舞わせている。

そんな静寂を破ったのは、聞き間違えるはずのない、少し低くて落ち着く「あの声」だった。私は、机に伏せていた顔をゆっくりと上げた。涙で視界がぼやけている。

「……カナ、ひどい顔してんな?」

窓枠にひょいと腰掛けて、夕陽を背負っているそのシルエットは、紛れもなく――。

「……ハル?」

1週間前、雨の日の交差点で、トラックに撥ねられて亡くなった私の幼馴染。

少しよれた制服、少し癖のある黒髪、悪戯っぽく細められる瞳。あの日、冷たくなってしまったはずの彼の姿が、そこにあった。

「よお。1週間ぶり」

ハルは、生前と全く変わらない声で、軽く手を振った。

「嘘……なんで? 私、また夢見てるの……?」

ハルが窓枠から飛び降り、私の前まで歩いてくる。足音はしなかった。彼が私の頬に手を伸ばす。けれど、その指先は私の肌に触れる直前で、冷たい風のようにすり抜けた。

「……あ。……透けてる」

「そう。幽霊なんだ、今の俺。……神様がさ、『お前の幼馴染、ずっと泣き止まないからうるさくて敵わん』ってさ。それで、49日間だけおまけをくれたんだ」

「私のせい……?」

「俺が、お前に会いたかっただけ」

ハルはそう言って、普段使っていた席に腰掛けた。

「でも、おまけには条件があるんだ。49日以内に、俺がこの世に遺した『未練』を解消すること。それができたら、俺はちゃんと天国に行けるんだってさ」

ハルは、私の机に置いてあった真っ白なルーズリーフを指差した。

私は震える手でペンを取り、彼が口にする言葉を書き留めていく。それは、残酷で愛おしい「期限付きの再会」の始まりだった。

「……ハル、本当に消えちゃうの? 49日経ったら」

私の問いに、ハルは一瞬だけ悲しそうに目を伏せた。
けれど、すぐにいつもの意地悪な笑顔を作って、私の頭を撫でるふりをした。

「泣くなよ。あと49日もあるんだ。
……最高に楽しい一ヶ月半にしてやるからさ」

窓の外では、放課後の部活の声が遠く響いている。
止まっていた私の時間が、カチリ、と音を立てて動き出した。

(残り、49日)
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