サヨナラは、向日葵の香りがした。

第4話:40日目、消えゆく花火と本当の嘘

ハルが戻ってきてから、40日が過ぎた。

もう、ハルの姿は昼間の光の下ではほとんど見えない。
薄暗い場所で目を凝らして、ようやく「そこにいる」とわかるくらい、彼は透き通ってしまった。

4つ目の『未練リスト』は
【真夜中の海で、二人きりで花火をする】

「……ちくしょう、やっぱり持てねえや」

波音だけが響く深夜の砂浜。
ハルは何度も砂の上に落ちた手持ち花火を拾おうとして、その指先をすり抜けさせていた。
悔しそうに笑う彼の顔は、今にも消えてしまいそうなほど淡い。

「いいよ、ハル。私が持ってるから」

私は二本の手持ち花火に火を灯した。
シュパッ、と闇を切り裂くようにオレンジ色の火花が弾ける。私は一本を自分の右手に、もう一本をハルの手があるはずの場所に重ねて、じっと動かさずにいた。

「綺麗だね、ハル」

「……ああ。でも、カナの方がずっと綺麗だよ」

不意に投げかけられた言葉に、心臓が跳ねる。
ハルは火花を見つめたまま、独り言のように呟いた。

「なあ、カナ。俺さ、神様に嘘ついたんだ」

「……え?」

「未練を解消したら天国に行けるって言ったけど、本当は逆なんだ。未練がなくなればなくなるほど、俺をこの世に繋ぎ止める力がなくなって、消えるのが早まるだけなんだよ」

火花がパチパチと音を立てる。
私は、震える声で聞き返した。

「……じゃあ、リストを全部埋めたら、ハルは……」

「そう。49日を待たずに消える。……でもさ、それでいいんだ。俺がここにいると、カナはいつまでも前を向けないだろ?」

ハルは、透き通った瞳で私を見た。

「俺の本当の未練はさ……俺が死んで、一人で泣いてるお前を置いていくことだったんだ。だから、お前が笑えるようになるまで、そばにいたかった。それだけだ」

「……バカだよ。ハルは、大バカだよ……!」

涙が溢れて、視界が滲む。
ハルを助けたいと思って協力してきたリストは、皮肉にも彼との別れを早めるカウントダウンだった。

「リストの最後、まだ書いてないだろ。あれ、書き足してくれよ」

ハルが指差したルーズリーフ。
私は泣きながら、言われるがままにペンを走らせた。

【最後の日、笑顔でサヨナラを言う】

「……そんなの無理だよ。書けないよ……」

「書けよ。俺たちが、ちゃんと終わるために」

手の中の花火が、パチッと大きな火花を散らして消えた。あたりは一瞬で深い闇に包まれる。
暗闇の中、ハルの気配だけが、冷たく、優しく私の隣にあった。夜の海風が、二人の間に吹き抜ける。

終わりの足音が、すぐそこまで迫っていた。

(残り、9日)
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