青い青い空
返ってこない反応にゆっくりと運転席側を窺う。
視線が重なった瞬間、息が止まった。
「今ほど車に乗っていることを恨むことはないだろうな」
後ろから鳴らされたクラクションで、それ以上甘い空気が充満することはなかったけれど。
「ま、窓を開けてもいいですか」
「雨が降ってるからダーメ」
しばらくの間は、そのクラリとしそうなほどの甘い香りが、車中に漂っていた。
* * *
赤信号で止まる度、隣から飛んでくる無数の視線に無視を決め込んでいると、「そういえば」と了安は何かを思い出したように声を上げた。
「結局、あの【青い青い空】の作者はわからずじまいなんだよね?」
「はい。残念ながら」
「その割りには、あんまり残念そうには見えないけど?」
「残念に決まってるじゃないですか」
賭けのことがあったからこそ一石や佐裕子が揉み消してくれたわけで、二度と同じ過ちなどできるはずもない。
誰が、一体何の目的であんなものを送りつけてきたのか。『ryusei koba』の送り主を最後に投稿はなくなり、秋のコンテストの最終選考発表に残った作品の中に【青い青い空】はなかった。けれど。
「いいんですよ。あれはもう」
何も、わからなかったわけじゃない。少なくとも、自分の思いにはちゃんと気付いてあげることができたのだから。