泡のような世界で君と恋をする
 悲鳴を上げる間もなく、冷たい水が全身を包み込む。
 身体が重くなり、光が遠ざかっていく。

 息ができない。
 肺が焼けるみたいに苦しくて、意識が白く滲んだ。

 ああ、ここは人の世界のはずだったのに。

 そう思った、その時。

 ――昔、海が静まり返った夜があった。
 波はあるはずなのに、音だけが消えていた。
 遠くに、人の船が境界に近づきすぎているのが見えた。
 誰も止めなかった。

 水面が揺れた。
 それは波ではなかった。
 境界が、軋んだのだ。

 恐怖でも、怒りでもない、ただ異質な感覚。
 その場にいた者の身体にだけ、静かに残った。

 触れれば何かが壊れる――
 そう、誰も言わなかったが、後で分かることになる。

「……大丈夫だ」

 水の中とは思えないほど、はっきりした声が聞こえた。
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