鈴村君の裏の顔
けれど、止まらなかった。
三上望愛は一瞬、
言葉を失った後、小さく頷いた。
望愛
「……分かりました。」
そう答えた声は、
さっきまでより、明らかに距離があった。
……だよな。
それでいいはずなのに。
なぜか、胸が、ちくりと痛んだ。
えっ……なに?
この人……急にキレてる?
最初は、
テレビで見る通りの“王子様”だった。
丁寧で、優しそうで、
近寄りがたいけど、感じは悪くない。
でも。
今の鈴村君は、違う。
ちょっと……苦手かも。
命令みたいな口調。
人を見下ろすような視線。
さっきまで、
キッチンで優希君と話していた時の空気が、
一気に冷えていくのを感じた。
何なの……急に。
理由が分からない分、
余計に距離を取りたくなる。
この人とは、
あまり関わらない方がいい。
そう、心の中で決めた。
私はキッチンを離れて、
廊下を歩きながら、小さく息を吐いた。
鈴村隼人という人は、
最初に見た“王子様”の印象とは、
あまりにも違いすぎる。
言い方が強くて、
視線が鋭くて、
まるで人をコントロールするみたいな態度。
近くにいると、疲れるタイプだ……
そう再び思っていると、
背後から、明るい声がした。
翔太
「おーい、三上さん」
振り返ると、森下君と宮部君が
並んで立っていた。
翔太
「さっきの、」
「気にしなくていいからな。」
森下君は、
リーダーらしい落ち着いた声でそう言った。
翔太
「隼人……」
「ちょっとピリピリ」
「してるだけだから。」
望愛
「……そう、なんですか?」
戸惑いながら聞くと、
宮部君が肩をすくめて、
色気のある笑みを浮かべる。
隆二
「まあ、あいつ基本ワガママだから(笑)。」
翔太
「おい、隆二。」
「そーゆー事言うな。」
森下君が軽く注意すると、
宮部君は笑って手を振った。
隆二
「冗談冗談。でも、」
「根は悪いやつじゃないから。」
悪気はなさそうな二人の雰囲気に、
張り詰めていた心が、少しだけ緩む。
翔太
「三上さん、」
「無理しなくていいからね。」
森下君は、真っ直ぐこちらを見て言った。
その言葉に、胸の奥が、じんわり温かくなる。
望愛
「ありがとうございます……。」
そう答えると二人は軽く手を振って、
リビングへ戻っていった。
リビングでは。
ソファに座る俺の前に、
翔太と隆二が立っていた。
翔太
「隼人。」
翔太の声は、
静かだけどはっきりしている。
翔太
「言い方、きつかったぞ。」
始まった……お説教。
俺は面倒そうに視線を逸らした。
隼人
「別に……キツくねぇし。」
隆二
「別に、じゃない。」
隆二が横から口を挟んだ。
隆二
「三上さん、びびってたぞ。」
その一言に、
隼人君の指が、わずかに止まる。
隼人
「……知らねぇ。」
「隆二には関係ねぇ。」
隆二
「嘘つけ。」
隆二は笑いながらも、その目は真剣だった。