鈴村君の裏の顔

隆二
「気になってるなら、」
「素直になった方が良いぞ。」

隼人
「は?」

俺が、アイツを気になる?
そんなんじゃ……ねぇよ。
たぶん……。

隼人
「気になってるわけねぇだろ!」

翔太は、俺に向かって小さくため息をついた。

翔太
「じゃあ……」
「なんで優希の時だけ反応するんだ?」


その言葉に俺は、言葉を失った。

……なんでって……

自分でも、答えが出ない。

ただ……
三上望愛が優希と並んでいるのを見ると、
胸の奥がざわつく。


翔太
「隼人。」

翔太は、表情を和らげ
少しだけ声を柔らかくした。

翔太
「MOONはチームだ。」
「余計な感情を外に出すな。」

隼人
「……分かってる。」

俺は短く答える。


だけど……心の中では、
別の感情が、確かに動いていた。

……あの女。

素っ気ない態度。
距離を取る視線。
無性にイラつく……

だけどそれが、
なぜか、妙に引っかかる。

……なんでだ。

それも答えが出ないまま俺は、
メンバーと一緒に仕事に向かった。




*望愛 side*

───望愛帰宅

私は、自分のマンションに帰宅した。

玄関のドアを閉め、
鍵をかけた瞬間、一気に肩の力が抜けた。


「……はぁ……」

誰に聞かせるでもない溜め息が、
静かな部屋に溶けていく。

リビングには、
小さなソファとローテーブル、
壁際に並べた本棚。

漫画とアニメのグッズが、覗いている。


靴を脱ぎ、
そのままソファにぽすっと身を沈めた。

やっぱり、家が一番だよね……。

一人暮らしは、
寂しい時もあるけれど、
こうして何も考えずに
呼吸できる時間がある。

テレビもつけず、
部屋の明かりだけが、やさしく灯っていた。



それなのに——。

……疲れた。

身体じゃない。
心の方が、じんわりと。

今日一日のことが、
勝手に頭の中で再生されていく。

MOONの寮。
家政婦3日目
そして——鈴村隼人。

「……無理かも」

小さく呟いて、
クッションを抱きしめる。

最初に会った時は、
本当に“王子様”だった。

丁寧で、物腰が柔らかくて、
テレビの中の人、そのまま。

なのに……今日……。

俺が言ってる、という圧。
命令みたいな言い方。
人を見下ろすような視線。

ああいう人、ほんと苦手……
きっとこっちの裏の顔が本当の
鈴村隼人君なんだと納得した。

無意識に、眉が寄る。

天然だとよく言われるけれど、
人の機嫌や空気に鈍いわけじゃない。

むしろ、
強い態度の人ほど、
必要以上に気を遣ってしまう。

……距離、取ろ。

誰もいない部屋で、
自分に言い聞かせる。

仕事は仕事。
私はただの家政婦。

余計なことを考える必要はない。

……はずなのに。

ふと、思い出す。

優希君と話していた時の、
あの懐かしくて、穏やかな空気。

小学生の頃に戻ったみたいな、
自然な時間。


それと比べてしまうから、
余計に、鈴村君の態度が強く残る。

同じグループなのに、全然違う……

不思議だ。

同じ場所で生活して、
同じ仕事をしているのに、
人って、こんなにも違う。

……あっ

そこで、胸の奥が、少しだけざわつく。


鈴村君の視線。

優希君と話している時、
確かに感じた、鋭い視線。

……見られてた?

一瞬、背筋がひやりとする。

いやいや、考えすぎだよね……

首を振って、
私は本棚の前に立った。

好きな漫画を一冊抜き取り、
ソファに戻る。

いつもなら、この時間が一番幸せだ。

ページをめくれば、現実を忘れられる
……はずなのに。

……あれ?

同じページを、
何度も目で追っている自分に気づく。

内容が、頭に入ってこない。

……集中できない……

苦笑して、漫画を閉じた。

ソファに寝転び、天井を見つめる。


嫌な印象しかない。
距離を取りたい。

それなのに……

鈴村隼人の低い声。
冷たい目。
俺様な態度。

そんな彼が……
なぜか、頭から離れない。


……明日行く時は、ちゃんと線引きしよ。

そう決めて、目を閉じる。

ここは、私の場所で私の生活。

MOONの世界とは、切り離した場所。

そう思いながらも——。

胸の奥に残った、
小さな違和感が、
静かな夜に、そっと居座っていた。

それが、
これから何度も、
私の心を揺らすことになるなんて。

この時の私は、
まだ知らなかった。



望愛 side 終わり
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