鈴村君の裏の顔
──翌日
朝のキャンパスは、
まだ少し冷たい空気をまとっていた。
望愛は講義棟へ向かいながら、
スマホで時間を確認する。
今日は一限から三限まで受けて
からその後は寮に直行する流れ。
人の流れに身を任せて歩いていると、
後ろから聞き慣れた声がした。
「望愛ーっ!」
振り返ると、由佳が小走りで追いついてくる。
「由佳、おはよ!」
「おはよう望愛!」
並んで歩き始めると、
由佳はじっとこちらを見てきた。
「なっ……なに?」
「私の顔、なにか付いてる?」
「……ねえ。」
由佳はニヤリとしながら言う。
嫌な予感……。
「望愛、最近さぁ……」
「うん?」
「バイト始めたでしょ?」
やっぱり……。
「なんで分かったの?」
「帰る時間変わったし、」
「前より忙しそうだしね。」
「私に、黙っても無駄だよ(笑)。」
由佳は、にやっと笑う。
「で、どんなバイトなの?」
一瞬、足が止まりそうになる。
……言う、けど
「ねぇ、由佳」
「今から言うこと……」
私は立ち止まって、
真剣な顔で由佳を見る。
「これ、絶対内緒にして。」
その雰囲気に、
由佳も空気を察したのか、表情を引き締めた。
「……うん、約束する。」
「誰にも言わないでね。」
「分かった。」
そこまで確認してから、
私は息を吸ってから口を開いた。
「家政婦、みたいなバイト。」
「……家政婦?」
「うん。」
「お姉ちゃんに頼まれて。」
それだけを、ゆっくり伝える。
「寮の、家事のお手伝いしてる。」
「寮?」
由佳の眉がぴくりと動く。
「お姉ちゃんの事務所の」
「……芸能関係。」
そこまで言った瞬間、
由佳の目が見開かれた。
「え!?ちょっと待って……」
「ちょ!!」
「由佳……声、抑えてら。」
慌てて小声で言う。
「……まさか」
由佳は、口元を押さえて囁く。
「MOON……?」
「……うん」
由佳は一瞬固まってから、
小さくガッツポーズをした。
「由佳、くれぐれも……」
「わかってる……」
「内緒ね、了解。」
でも、すぐ由佳は首を傾げて言う。
「で?実際どうなの?」
「MOONの素顔とか……」
「由佳、ごめん。」
「それは、話せない。」
「え?」
「仕事だから。」
きっぱりとした声で私は言った。
「私が見たこととか、」
「感じたこととか、」
「そうゆーの外で話したら、」
「彼達の仕事の妨げになるでしょ?」
由佳は、少し驚いた顔をした。
「……真面目だね。」
「そーゆーところの望愛の」
「長所だよね!」
「真面目じゃないよ。」
「普通だよ。」
「私はただのお手伝いだし。」
「ファンでもないしね。」
「そっか……」
由佳は、納得したように頷いた。
「でもさ……」
少しだけ、声を落として言う。
「頑張りすぎて、」
「無理はしないでね。」
「芸能人が近くに存在すると」
「大変そうだし……。」
「うん。」
「由佳、ありがとう。」
由佳のその言葉に、
胸の奥がじんわり温かくなる。