鈴村君の裏の顔


「ま、優希君の話は聞きたいけど(笑)」

「それもダメ(笑)」

冗談の会話でも私は即答してしまった。

「えー(笑)」

「プライベートの事は」
「言ったらダメでしょ?」


「分かった。」
 「望愛がそう言うなら。」


そう言って由佳は、
講義室の前で手を振って
去って行った。

私は、まだこの時……

自分が守ろうとしている
“線”の向こう側に、
鈴村君が踏み込んでくることを、
想像もしていなかった。





3講義を終えた私は、
いつものように少し緊張しながら
MOONの寮のインターホンを押した。

今日は……誰がいるんだろう。

返事は、すぐだった。


「……開いてる。」

低く、落ち着いた声。

その声を聞いた瞬間、
色んな意味で心臓がわずかに跳ねる。

——鈴村君。

玄関のドアを開けると、
リビングは驚くほど静かだった。

照明はついているのに、
人の気配が、ひとつしかない。

「あの……今日……」
「他の皆さんは?」

恐る恐る尋ねると、
ソファに座っていた鈴村君が、
ちらりとこちらを見る。


「収録。」
「優希も、他の奴らも。」


「……そうなんですね。」


えっと……
つまり……二人きり……?


その事実を意識した瞬間、
空気が一段、重くなる。
うそ……めっちゃ気まづいんだけど……。


「……昨日のことだけど。」

鈴村君はソファから立ち上がった。

そして私に話しかけながら、
ゆっくりと歩み寄ってくる。


「悪かった。」

短い言葉で彼は私に謝る。


昨日の俺様な態度とは違う、
どこか真剣な声音だった。


「俺、言い過ぎた。」

望愛は、思わず目を瞬かせる。


「え……」

「俺様発動してた。」

自嘲気味に、ふっと笑う。


「王子の顔はな、仕事の時だけで」


「……」


「こっちが、素の俺ってなわけ。」

そう言って、
真正面から望愛を見る。

逃げ場のない距離。

「だから、勘違いするなよ。」


「俺は、優しくて」
「完璧なアイドルじゃない。」

その言葉に、
胸の奥が、少しだけざわつく。


「……でも」
「それ、私に……言って」

望愛が言いかけた、その時。


「名前……」

鈴村君が、遮ってきた。

「今日から、」
「お前のこと、望愛って呼ぶから。」


「えっ!?」
「なんで……呼び捨てですか。」


鈴村君は、私の質問を無視して
当然のように言う。


「だからお前も……」

更にはぐっと距離を詰めてくる。
えっ……なにこの人!?

「俺のこと、“隼人”って呼べ。」

突然の宣言に、
思考が追いつかない。

「えっちょっと……待ってください。」
「そ、それは……」

望愛は、慌てて首を振った。
< 14 / 60 >

この作品をシェア

pagetop