鈴村君の裏の顔


「呼び捨ては、出来ません。」

きっぱり。

「鈴村君に失礼ですし……。」

少し間を置いて、
丁寧に言葉を選ぶ。

「隼人君、と呼ばせていただきます。」

その瞬間。

「……ふっ。」

隼人君が、低く笑う。


「可愛い拒否だな。」

「えっ!?」

次の瞬間……顎に、指先がかかる。

そして私は、いつの間にか
あの……少女漫画みたいなシチュエーション
の顎クイとやらをされていた。

軽く、でも逃がさない力で。

顎先から伝わってきちゃう……
隼人君の指先の体温がやけに
生々しくて言葉を失ってしまった。

「っ……」

顔が上を向かされ、
視線がぶつかる。

近い!!!

近すぎる!!!


「敬語もやめろ。」

「名前は、最初は”隼人君”で」
「許してやる。」
「だけど、徐々に呼び方は慣れろ。」


隼人君は俺様そのものの口調で、
私に命令してくる。


それなのに……何故だか
隼人君のその目は、
不思議と優しかった。


「……望愛。」


今まで、男性に呼び捨てで名前を
呼ばれていない私は不覚にも
胸が、きゅっと締めつけられる。


「俺はな。」


顔……近っ……。


「お前が……」
「優希と仲良くしてるのが」
「気に入らない。」
「でも……。」


一瞬だけ、隼人君は
視線を逸らしてから、またこちらを見る。

「目が離せないのも、」
「事実だ……。」

やっと指が、顎から離れる。

「だから……」

少しだけ、隼人君の口角が上がる
瞬間を私は見てしまった。

「覚悟しとけよ。」


「俺は、一度気に入ったら、」
「絶対離さない主義なんでな。」


私は、唖然とするしかなく……
何も言えなかった。

気に入ったって?
何を気に入るの!?
この人……面白がってる?

なんでだろ……
胸の鼓動がうるさい……

……苦手なはずなのに。

どうして、こんなに……。


強引で、俺様で、
でも、どこか不器用な彼。

私は確信した。
鈴村隼人という存在は、
私の中での“危険な人”として、
はっきり刻まれた。
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