鈴村君の裏の顔
*隼人 side*
玄関のドアが開く音がしたのは、
望愛が帰ってから、
少し経ってからだった。
「ただいまー。」
聞き慣れた声。
収録を終えたばかりの、
優希が帰ってきた。
隼人はソファに深く腰掛けたまま、
ちらりと時計を見る。
「あれ、隼人1人?」
靴を脱ぎながら、
優希がリビングを見回す。
「翔太と隆二は?」
「まだ帰ってきてない。」
短く答える。
優希はペットボトルの水を一口飲み、
ふっと息をついた。
「今日の収録、長引いてさ……」
俺は、あまり優希の話しが
頭に入って来なかった。
それより、この前から気になってる
望愛と優希の関係性を聞きたくて
しょうがない。
「……なぁ、優希。」
声を低くすると、
優希がこちらを見る。
「望愛と……」
一拍置く。
「お前らって、どういう関係だ?」
その瞬間、
優希の動きが、わずかに止まった。
「は?」
「お前ら途中からはじめまして、」
「って空気じゃなかった。」
俺は、じっと優希を見据える。
「初対面の距離感じゃねぇよな。」
「お前、何か知ってるだろ。」
優希は沈黙から数秒……
優希は、ゆっくりと息を吐いた。
「……小学校、一緒だったんだよ。」
その答えに、俺は眉をひそめる。
「は?」
「俺の、小学生時の」
「初恋だった人。」
淡々とした声。
だが……
その奥に隠れた感情は、
俺にもはっきり伝わった。
「再会しただけだ。」
「それだけ?」
俺は、口元を歪める。
「随分、仲良さそうだったけどな。」
「……」
優希は何も言わない。
その沈黙が、余計に腹立たしい。
「まぁいい。」
俺は立ち上がり、
キッチンカウンターにもたれた。
「俺さぁー」
ふと俺は笑みを浮かべて、
優希に発言する。
「望愛が気に入った。」
その一言で、
空気が、凍りついたのがわかる。
「……は?」
「……それってさ……」
優希の声が、低く震えた。
「つまり、隼人は望愛ちゃんの事」
「好きってこと?」
優希の苛立ちを隠さない視線が突き刺さる。
「……知り合ったばっかだろ。」
一歩、距離を詰める。
「たった数日だ。」
「今日、俺はこの恋と言う感情に気付いた。」
「たった、数日で……何言って……。」
優希の声が、どんどん荒くなる。
「簡単に“気に入った”とか言うなよ。」
「んだよ……やけに突っかかるな。」
「望愛ちゃんは……」
優希は拳を握りしめ、
歯を食いしばって俺を見ていた。
「そんな軽い気持ちで」
「振り回していい存在じゃない。」
隼人は、少しだけ口角を上げた。
「軽い気持ちじゃねぇよ。」
「アイツは面白ぇ女だ。」
「芸能人に興味ねぇ顔して」
「俺のことも、特別扱いしない」
「なのに……」
望愛の表情が、脳裏に浮かぶ。
視線を逸らした横顔。
敬語で拒否した声。
それでも、まっすぐだった瞳。
「目が離せなくなる。」
「こんなの俺にとっては」
「初めての事なんだよ。」
俺が言ったその言葉に、
優希の表情が見る見るうちに歪む。
「……ふざけんな。」
優希が、一歩踏み出した。
いつもオフの時の優しい表情はなく、
感情がむき出しになっている。
「隼人。」
「お前は、ダメだ。」
「……あ?」
「何でだよ!?」
「望愛ちゃんは……」
優希強く、言い切る。
真剣な目で真っ直ぐ俺を見て。
「俺が、昔から想ってるから。」
その一言で、
俺の胸が、どくりと鳴った。
「だからって、譲る理由にはならねぇ。」
俺は、挑発するように言う。
「恋は、先着順じゃないだろ!」
「……っ」
優希の歯が、ぎりっと鳴る。
「忠告だ……」
優希は、真っ直ぐ隼人を見た。
「望愛ちゃんを、傷つけるなら」
「俺は、容赦しない。」
隼人は、低く笑った。
「同じこと、言わせんな」
「俺様は」
確信を込めて、告げる。
「気に入った女、簡単に手放さねぇ。」
「俺も……隼人に譲る気なんてない。」
「上等だ。」
「話しはそれだけだ。」
「あっそ……。」
「じゃ、俺もう部屋戻るから。」
優希は、俺に背を向けて自分の部屋に
戻って行ったろ。
上等だ……俺は絶対、お前に負ける気なんて
サラサラない。
ぜってぇ……望愛の事手に入れてみせる
と俺はこの時心に誓った。
隼人 side 終わり