鈴村君の裏の顔

*優希 side*



自分の部屋のドアを、静かに閉めた。

ガチャ、という音がやけに
大きく響いた気がして、無意識に息を止める。

……静かだ。

収録の疲れよりも、
さっきの隼人との会話が、
胸の奥に重く残っていた。

「……くそ」

小さく吐き捨てるように呟き、
カバンを椅子に置きベッドに腰を下ろす。

天井を見上げると、
白いはずの天井が、
やけに遠く感じた。

”気に入った”
”目、離せねぇ”
”恋と気付いた”

隼人の声が、
何度も頭の中で再生される。

なんで……望愛ちゃんなんだよ。

拳を、ぎゅっと握る。

望愛ちゃんと再会した日のことが、
自然と蘇った。

あの、少し驚いた顔。
名前を呼ばれた瞬間の、
一瞬の間。

……俺に気づいていなかったのに、
それでも、
昔と同じ空気で笑ってくれた。

望愛ちゃんは、変わってなかった。

ちょっぴり天然なとこもあって、
それにとても優しくて、
人を特別扱いしないところも。


だからこそ。

簡単に……
望愛ちゃんを奪われるわけにはいかない。

隼人は、強いし、尊敬もしてる。

センターで、
カリスマ性もあって、
放っておいても人を惹きつける。
正直羨ましい。


でも……

あいつは、まだ知らない。

望愛ちゃんが、どれだけ繊細で
どれだけ人の言葉を大切にするか。

強引な優しさに、
笑ってしまうくせに。

一人になった瞬間、
ちゃんと悩んで、
ちゃんと傷つくことも。

「……俺は」

小さく、声に出す。

「昔から……」
「望愛ちゃんを見てたから……。」


小学生の頃。

放課後の校庭。
忘れ物を取りに行って、
一人で泣いていた望愛。

声をかけるのに、
どれだけ勇気がいったか。

結局、
名前を呼ぶだけで精一杯だった。

なにも……
助けられてあげられなかった。

何も出来なかった……。

その後、俺は親の転勤で引越し
離れてしまって。


もう会えないと思ってた。

それなのに。

こうして再会して、
同じ屋根の下で、
同じ人を想ってる。

運命なんて、
信じてなかったはずなのに。


ベッドに仰向けになり、
腕で目を覆う。


”譲る気はない”


声は震えていなかった。

迷いも、なかった。

だけど……隼人は言った。

……恋は先着順じゃない。
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