鈴村君の裏の顔

言い訳はいくらでもある。

でも本音は。

……二人きりになりたい。
ただ……それだけだった。

その事実を、
自分でもはっきり自覚して、
小さく笑った。

「俺様だな、ほんと。」

自嘲気味に呟きながら、
クローゼットを開ける。

中には、
プライベート用の私服、
そして“変装用”の服。

黒のパーカーを手に取る。

これなら、気づかれねぇだろ。

キャップを被り、
マスクをつける。

鏡の前に立ち、
自分の姿を確認する。



……別人だな

ここには……
ステージの上の“王子様”は、
どこにもいない。

いるのは――
一人の、
独占欲まみれの男。

優希……

あいつの言葉が、頭をよぎる。

”望愛ちゃんの料理、一番に食べたい。”

あの一言。

柔らかいくせに、
確実に踏み込んでくる。


優希の本気が伝わってきちまう。

そりゃそうだろうな。
小学校の時からお前は好きなんだもんな。


譲る気、ねぇんだな。

それなら……俺もだ。

望愛の前であろうと、
優希の前であろうと、
遠慮なんてしない。

俺は、俺のやり方でいく。

強引でも、
不器用でも。

「……覚悟しとけよ」

誰に向けた言葉か、
自分でも分からないまま、
低く呟く。

スマホをポケットに入れ、
ドアノブに手をかける。

この扉を開けたら――
もう、戻れない気がした。

でも……俺は……後悔は、しねぇ。

そう決めて、隼人は部屋を出た。

――望愛を、
駅まで送るために。







玄関には、
夜の気配が静かに溜まっていた。

私は靴を揃え、
カーディガンに袖を通しながら、
少しだけ背筋を伸ばす。

……なんだか、緊張する。

さっきまで
あんなに賑やかだったリビングが、
急に遠く感じる。

翔太
「じゃあ、気をつけてな。」


森下君は、
リーダーらしい落ち着いた声で言う。


隆二
「本当、気をつけてね夜道だし。」

宮部君も続けて言ってくれる。

隆二
「隼人いるから大丈夫だと思うけど」

望愛
「はい。」
私はぺこりと頭を下げる。

望愛
「今日は、」
「本当にありがとうございました。」


翔太
「こちらこそ。」

森下君は柔らかく微笑んだ。
この笑顔……最近、テレビで見た。
森下君はさそほど、ONとOFFが
変わらない人なんだなぁ。


そのやり取りを、
宮部君の隣りで見ていた優希君が、
小さく声をかけてくる。

優希
「望愛ちゃん。」

望愛
「はい?」

優希
「……遅くならないでね。」

一言だけ。
それなのに、
どこか名残惜しさを含んだ声。

望愛
「はっ……あっ!」
「うん、優希君もありがとう。」

危ない危ない……
さっき優希君と、仕事以外はタメ口で
と言われてたのに敬語使うところだった。

私は、にこっと笑ってタメ口で
優希君に”ありがとう”と伝えた。



望愛ちゃんの笑った顔を見た瞬間、
俺の胸が、ほんの少しだけ締め付けられる。

……送るのが、俺じゃないのがな。

その思いを、
口に出すことはなかった。


隆二
「隼人、まだか?」

隆二が腕時計を確認する。

翔太
「変装するって言ってたからな。」
「もうすぐで来るだろ。」

――その時。


隼人
「望愛、待たせたな。」

低く、少し掠れた声が
廊下の奥から響いた。

全員の視線が、
一斉に隼人君の方を向く。

部屋から出てきた隼人君は
さっきまでの隼人君とは、
まるで別人だった。

黒のキャップを深く被り、
マスクで口元を隠し、
シンプルな黒のパーカー姿。

アイドルのオーラは、
意図的に消されている。

望愛
「……え!」

私は、あまりにも完璧な変装ぶりに
思わず声を漏らす。
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