鈴村君の裏の顔
*望愛side*
ドアが閉まり、
鍵の音が静かに響く。
カチャン、と小さな音。
それだけなのに、
外の世界と切り離されたみたいに、
急に部屋が静かになる。
「……つっ//////」
私はしばらく、
玄関に立ったまま動けなかった。
靴も脱がず、
背中をドアにもたれさせる。
なんか……
胸の奥が、
まだ少しざわざわしている。
手のひらを見つめる。
さっきまで、
隼人君がすぐそこにいた。
毛先に触れられた感触が、
まだ残っている気がして、
思わず自分の髪に触れる。
……何これ……何これ……
変だよ……私……。
全然、落ち着かない。
でも嫌じゃない……。
私は身体中の火照りを持ったまま、
リビングへ入り、
バッグをソファに置く。
部屋はいつも通りのはずなのに、
どこか違って見える。
静かすぎるから?
それとも……
ふと、窓の外を見る。
もう帰ったかな?
考えて、すぐに首を振る。
「別に……気にしてないし。」
小さく呟く。
ただ……
ちゃんとマネージャーさん来たかな、
とか。
寒くないかな、とか。
それだけ。
それだけ、のはず。
キッチンへ向かい、
コップに水を注ぐ。
手が少し震えていることに気づいて、
自分で驚く。
なんで緊張してるの!
今日、一日を思い返す。
リビングでの食事。
駅まで送る、の押し。
電車の中。
さりげなく
車道側に移動したこと。
私の毛先に触れられたこと。
”……俺のこと苦手なのに?”
あの言い方……
からかうようで、
でもどこか嬉しそうで。
って言うか……バレてた……。
思い出して、ソファに顔を埋める。
「最悪……」
恥ずかしい。
苦手って思ってるの、
ちゃんと隠してたつもりだったのに。
でも……
本当に、苦手……?
ふと、疑問が浮かぶ。
強引だし。
俺様だし。
距離近いし。
ドキドキするし。
……ドキドキ?
顔がじわっと熱くなる。
「違う違う違う!」
自分でもびっくりするぐらい、
大きな声で呟いていた。
慌てて頭を振る。
これはただ、慣れてないだけだよ。
あっちは芸能人。
しかも人気アイドル。
普通の大学生が、
こんな距離で接することなんてない。
あってはならない。
だから緊張するんだ……
うん、きっと……絶対それだけ。
そう……
それだけ。
スマホが震える。
由佳からのLINEメッセージ。
《今日もバイト?どう?》
画面を見つめて、少し考える。
《うん、普通かな。》
指が止まる。
普通?
今日が?
……普通、じゃないような気がする。
でも、
何がどう違うのか、
うまく言葉にできない。
《忙しいけど、頑張ってるよ。》
それだけ送って、
スマホを置く。
ソファに寝転び、
天井を見つめる。
静かな部屋に、
自分の心臓の音がやけに響く。
優希君は……小学生時代の
友達で、いつも私を気にかけてくれる。
隼人君は……
そこで思考が止まる。
強引。
俺様。
意地悪。
でも。
「……優しいところもある。」
小さく漏れたその言葉に、
自分で驚く。
すぐにクッションで顔を隠す。
キュン……
「違うってば!」
これは好き、とかじゃない。
これは、きっと男性に免疫がない
私に隼人君は面白がって
私の反応を楽しんでただけ………。
ただ……
今日はなんか変だった。
距離が近すぎて。
心が落ち着かなくて。
帰ってきたのに、
まだあの空気の中にいるみたいで。
目を閉じると、
最後に見た隼人の表情が浮かぶ。
”優しいな、お前”
その声が、
やけに鮮明で。
胸がまた、きゅっとなる。
あっ……これ駄目なパターンだ。
確実に迷走してしまう。
その前に……
「……寝よ。」
逃げるように立ち上がり、
ベッドへ向かう。
電気を消して、
布団に潜り込む。
暗闇の中……ふと、無意識に
フラッシュバックする。
”またな、望愛”
自分の名前を呼ばれた時の、
あの低い声。
心臓が、
とくん、と強く鳴る。
……本当に、なんなの。
男の人を好きになるってこんな感じなの?
いや……そんな簡単なものじゃない。
だからこれはきっと……違う。
だけど……
静かな夜の中で、
私の胸には確かに残っていた。
強引で。
意地悪で。
なのに優しかった、
あの人の余韻が。
望愛 side 終わり
第3話 独占欲の塊 終わり