鈴村君の裏の顔

第4話 また友達になってよ。




――前日。

夕方の寮。

キッチンに立つ望愛の背中を、
リビングから二つの視線が追っていた。

今日はオフ組と収録組に分かれていて、
家にいるのは翔太と俺だけ。


優希と隆二は朝から別の仕事で不在。


その事実に、
俺は自分でも気づかないうちに
ほんの少しだけ安堵していた。

……今日は、あいついねぇ。
っしゃー!と心の中でガッツポーズをする。

キッチンからは、
包丁がまな板に当たる軽やかな音と、
味噌汁の香りがゆっくり広がる。

今日は昼頃に望愛が家事をしに
やって来た。
最初はリビングと各部屋を掃除し、
事前に望愛の姉(社長)からもらってるであろう
MOONの寮用の食費で夕ご飯の食材を買いに
出かけ、今に至る。



翔太
「三上さん、今日も料理いい匂い。」

翔太が立ち上がり、
カウンター越しに声をかける。

望愛
「本当ですか?よかったです。」

振り向いた望愛は、
いつもの柔らかい笑顔。

その瞬間、
俺の胸が、わずかにざわつく。

その顔、反則だろ……。

隼人
「何作ってんだ?」

ソファから動かずに問いかける。

望愛
「今日は、豚の生姜焼きと」
「ほうれん草のおひたしと……」
「後は、お味噌汁です。」


隼人
「へぇー」
「和食か、丁度食べたいと思ってた。」


望愛
「昨日、翔太君が……」
「和食好きって言ってたので。」

翔太が少し驚いたように目を丸くする。

翔太
「覚えてたの?」

望愛
「はい、昨日の事なので」
「流石に覚えてますよ。」


そのやり取りを見て、
隼人の眉がわずかに動く。


隼人
「じゃ……俺は?」

望愛
「え?」

「俺の好みは?」

不意打ちの問いに対して、
望愛は一瞬きょとんとする。


望愛
「え、えっと……」
「甘いものが好き……ですよね?」


昨日、冷蔵庫のプリンを
隼人君がさりげなく食べていた
のを思い出す。


隼人
「ちゃんと見てんじゃん。」

俺の口元が、少しだけ上がる。

翔太はその空気を感じ取り、
くすっと笑って言う。

翔太
「隼人、分かりやすいなお前(笑)。」


隼人
「うるせぇ!」

こんなやり取りをしていると、
望愛が皿を並べ始め、ポツリと呟いた
言葉を俺は聞き逃さなかった。


望愛
「今日は優希君もいないから、」
「静かですね……。」

望愛にとっては何気ない一言。

だが……俺にとっては……

望愛が言い終わるその瞬間、
俺の目がわずかに細まる。


隼人
「……寂しいか?」

低い声で俺は望愛の後ろ姿を見ながら
言う。

望愛
「え?」

隼人
「だから!」
「優希いねぇと寂しいのかって」
「聞いてんだよ!」


翔太が、俺の発言で苦笑する。


望愛はビクリと肩を上げてから、
慌てて首を振る。

望愛
「ち、違います!」
「そういう意味じゃなくて!」

分かりやすく焦る姿。
すげぇイライラする……。

俺は立ち上がり、
ゆっくりキッチンへ近づく。

隼人
「ふーん。」

カウンター越しに望愛に近付く。


隼人
「俺と翔太じゃ、物足りねぇ?」


望愛
「なっ!!」
「そんなことないです!」

声が少し裏返る。


なんでこんな質問するの、
この人……。
私……なにか気に障る事した?
隼人君のイライラが伝わってくる。



翔太
「三上さん困ってるよ。」


隼人
「別に困らせてねぇよ。」

そう言いながらも真っ直ぐ
望愛に顔を見る。

隼人
「……明日休みなんだろ」

望愛
「はい。大学もバイトも」
「休みですよ。」


隼人
「何すんの?」

望愛
「親友の由佳とショッピングして、」
「映画観に行く予定です。」


その言葉に、俺の動きが止まる。
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