鈴村君の裏の顔
*優希side*
本屋の静かな空気の中。
ページをめくる小さな音。
その中で、
俺の心臓だけがやけにうるさい。
やっぱり、望愛ちゃんだ。
後ろ姿ですぐ分かってしまう。
少し内側に入った肩。
漫画に夢中になると、
無意識に唇が少しだけ開く癖。
小学生の時とその癖変わらないね。
そんな細かいことまで知ってる自分に、
苦笑する。
望愛ちゃんの事……好きすぎるだろ。
俺は、アイドルグループ“MOON”の優希。
表に立つ人間。
常に見られる側。
でも……
俺が見てるのは、
いつも望愛ちゃんだ。
昨日、隼人が言っていた。
“ちゃんと見てんのは俺だからな”
あの言葉が、妙に引っかかった。
……は?って思った。
見てるのは隼人だけじゃない
俺も、望愛ちゃんの事ちゃんと見てる。
誰よりも。
望愛が少し疲れてる日も。
無理して笑ってる日も。
俺は気づいてる。
でもそれを、本人は知らない。
本屋で声をかけた瞬間の、
あの顔……。
驚いて、キョトンと目を丸くして、
でもすぐ優しくなる。
あぁ……無理。
ただ……好きって単語が出てしまう。
敬語で話す距離感が嫌だった。
“タメ口って約束でしょ?”
本当は約束なんてしてない。
ただ、俺がそうしたいだけ。
敬語は壁だ。
“優希君”って呼び方も壁。
“君”がつくたび、遠く感じる。
だから言った。
呼び捨てでいいって。
本当は、呼ばれた瞬間に
理性飛ぶかもしれないけど。
でも望愛ちゃんは困った顔で、
「恐れ多いです」なんて言う。
恐れ多い?
俺の方がよっぽどだよ。
こんなに好きで、
こんなに振り回されて、
それでも笑顔一つで全部どうでもよくなる。
カフェで向かい合ったとき。
ストローを回しながら、
必死に平静を装ってた。
“会えてよかった”
あれ、本気でそう思った事が
勝手に口から出てた。
今日は家政婦の仕事休みだから
会えないと思ってた……。
きっと今日会えなかったら、
たぶん一日中つまらなかった思う。
偶然の出来事……
こんな事で舞い上がってしまう自分が
一番驚いている。
会えた瞬間、
今日はもう当たり日だって思った。
望愛ちゃんは気づかない。
俺が歩幅を合わせてることも。
指先が触れたあと、
少しだけ呼吸が乱れたことも。
俺が漫画代を払ったのは、
ただ甘やかしたかっただけだ。
望愛ちゃんに喜んでほしい……
その思いだけが胸をいっぱいになる。
この間、ソファに一緒に
隣に座ったときの距離を思い出す……
あと少し近づいたら触れてしまいそうで……
でも触れられない距離。
触れたら、本気が度がバレて
嫌われないか不安になる。
そんな事を思考回路して俺は焦ってる。
隼人の存在があるから……。
あいつは直球だ。
俺は余裕振っているが
本当は一番余裕がない。
望愛ちゃんが笑うと
俺の中の世界が緩む。
望愛ちゃんが困まっていると、
守りたくなる。
望愛ちゃんが他の男の話をすると、
胸がざわつく。
これを“好き”って言わないなら何なんだよ。
本来、親友の子と観るはずだった映画……。
一人で鑑賞しようとしているのを
一緒に観ようって誘ったのも、
二人きりの時間が欲しかっただけ。
暗い館内で、
隣にいる理由が欲しかっただけ。
スクリーンよりも
横顔を見る自信がある。
たぶん俺は……
望愛ちゃんが思ってるよりずっと、
重い奴なんだと思う……。
でもそれを出したら、
引かれるかもしれない。
だから今は……
甘く、優しく、
君の隣にいたい……
また友達からはじめたい……。
望愛ちゃん俺のこと、ちゃんと見て。
俺は君のこと、見すぎるくらい見てる。
隼人にも負けない。
誰にも渡す気なんて1ミリもないんだよ。
君が気付いてくれるまで、
俺は笑顔を絶やさない。
たぶんもう……
この恋は止まれないんだ……。
優希 side 終わり