鈴村君の裏の顔
街の喧騒の中。
人の流れに逆らうことなく歩いていた
俺の視界に、ふと引っかかる
光景が映った。
二人並んで歩く男女。
笑い合いながら、
肩の距離がやけに近い。
一瞬、ただのカップルかと思った。
……でも違った。
……は?
足が止まる。
視線が、勝手に吸い寄せられる。
緩めのボアコート纏った
見覚えのある後ろ姿。
少し寒そうに肩をすぼめながら、
でも楽しそうに話している女。
柔らかい風で揺れる髪。
望愛……三上望愛だ。
その横にいるのは……
帽子にマスク、ラフな服装。
けれど、あの立ち姿と雰囲気は間違えようがない。
樋口……優希
一瞬、時間が止まったみたいだった。
そして胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられた。
間違いない……間違えるはずがない。
三上望愛と、樋口優希。
……なんで。
喉の奥が、ぎゅっと詰まる。
なんで、
あいつらが一緒にいる。
俺は、昨日の会話を思い出していた。
”明日、親友の由佳って子と映画行くんです”
確かに、そう言ってた。
だから俺は――
余計なことは聞かなかった。
由佳、って名前も覚えてる。
それなのに……
一体……由佳はどうした。
視線が、二人から離れない。
優希は、少し身をかがめるように
して望愛の話を聞いている。
望愛は、手振りを交えながら
楽しそうに話している。
距離が……近い。
――近すぎる。
おい……
胸の奥で、黒い感情が渦を巻く。
俺の中の“俺様”が、
はっきりと顔を出す。
昨日まで、俺の前で笑顔見せてた
あの表情。
俺だけのものじゃ、なかったのかよ!
勝手だって分かってる。
分かってるのに。
優希が、ふっと笑って――
望愛の方に顔を寄せた、その瞬間。
……ブチ。
何かが、切れた。
何、楽しそうにしてんだよ!
足が、勝手に前に出そうになる。
今すぐ声をかけて、
今すぐ理由を問い詰めて、
今すぐ、引き離したい。
でも、
理性が、かろうじてブレーキをかけた。
……待て。
ここで出ていったら、
完全に面倒な男だ。
しかも、
俺はまだ――
望愛に”好きだ”と言っていない。
ただの、家政婦と雇い主。
それだけの関係。
クソ……
俺はいつの間にか、
奥歯を強く噛み締めていた。
優希が望愛を見つめる目。
あれは――
仕事の時のクール担当の顔でもない、
素の優しい顔でもない……
明らかに望愛を特別に見ている表情だ。
あいつ……。
最初家政婦として来た望愛を見た時の、
優希の態度がどこかおかしかったのを思い出す。
妙に優しくて。
妙に距離が近くて。
まさか……最初から知ってたのか
望愛が、小学生の時と同じ人物だって事。
胸の奥が、ざわつく。
嫌な予感が、
確信に変わりかけていた。
……だから、あんなにソワソワしてのか。
望愛は、まだ気付いてない。
優希の視線の意味も。
自分が、どれだけ見られているかも。
……鈍感すぎんだろ。
でも……
そんなところも、
俺が気に入った理由だった。
二人は、駅の方へ向かって歩いていく。
並んで自然に。
まるで、昔からの友達みたいに。
いや……
……友達以上な感じに見える。
優希が、少し照れたように視線を逸らす。
望愛が、首を傾げて何か言う。
その距離感。
へぇ……面白ぇ。
怒りと、苛立ちと、
どうしようもない独占欲。
全部が混ざりあって
胸の奥で燃えていた。
俺の好きな女、取る気かよ優希。
……望愛はどう思っているのか
分からないが、誰にも渡すつもりはない。
俺は、二人の背中を睨むように見つめながら、
静かに息を吐いた。
……覚悟、決めるか。
さっきは立ち去ろうと考えたが……
でもやっぱりこのまま、
黙って見てるだけなんて
俺の性に、合わねぇ。