鈴村君の裏の顔
駅へ向かう道は、
人通りが増えてきていた。
夕方に近付くにつれて、
空気は少しだけ湿り気を帯びる。
なんだか……雪が降りそうな雲行き。
私は、優希の隣を歩きながら、
映画の感想をぽつりぽつりと話していた。
望愛
「……あのシーン、」
「意外だったよね!」
「まさか、未来に帰っちゃうなんて」
「切ないね。」
優希
「うん。あそこのシーンは、」
「俺も好きで、演技頑張ったんだよ。」
優希はそう言って、柔らかく笑う。
その笑顔を見て、望愛は胸の奥が
ほんの少しだけ、ほっこりする。
でも、それが何なのかは分からない。
ただ、楽しいそれだけ。
そう思った、その瞬間だった。
隼人
「……おい!」
はっきりした声が背後から聞こえた。
空気が、変わる。
私は反射的に振り向いた。
望愛
「えっ!?」
なぜ、隼人君がここに!?
そこに立っていたのは――
黒いキャップにマスク。
ラフな服装なのに、隠しきれない存在感。
望愛
「……はっ……隼人君?」
声に出した瞬間、
心臓が一気に音を立てて跳ねた。
今日仕事のはずじゃなかったけ?
今日は忙しいって……。
頭が追いつかないのに、
胸だけが、じわっと熱を帯びる。
まるで、
突然スポットライトを浴びたみたいに。
じわじわと胸が熱くなる。
隼人
「何で、二人で歩いてんだ。」
感情を抑えたような、
でも抑えきれていないような声。
隼人君その視線が、
私と優希君を交互に射抜く。
望愛
「え……あの……」
理由を説明しようと口を開いたけど、
言葉が上手く並ばない。
そんな私を、
隼人君はじっと見下ろしてくる。
うっ……なに、この圧
怖いはずなのに、目が逸らせない。
あっ……
その視線に、気づいた瞬間だった。
隼人の目。
あれは……完全に、俺を睨んでる。
しかも、
望愛ちゃんを見る目も――
……独占欲、全開じゃん。
胸の奥が、ざわつく。
でも、不思議と退く気にはならなかった。
むしろ……
この時間……譲る気、ないけど。
俺は、自然に一歩、望愛ちゃんの前に出る。
守る、というより――
譲らない、という意思表示。
優希
「偶然会ったんだよ。」
俺は落ち着いた声でそう言う。
優希
「今日は俺、オフだし。」
隼人の視線が、さらに鋭くなる。
隼人
「へぇ……」
隼人君は優希君の返答に、
短く笑った。
でも、その笑みは完全に、俺様。
隼人
「偶然にしちゃ、楽しそうだな。」
望愛
「……普通に楽しいよ。」
私がそう言うと、
隼人君はふっと目を細める。
隼人
「昨日は、親友と映画って」
「言ってたよな?」
覚えてたんだ……。
その事実に、
また胸が変に熱くなる。
望愛
「えっと……由佳は急用で……」
説明すると、
隼人君は一瞬だけ目を伏せ、
すぐに私を見据えた。
隼人
「じゃあさ……」
隼人君は一気にぐっと距離を詰めにきた。
隼人
「お前の連絡先、教えろ。」
望愛
「……え?」
突然すぎて、言葉を失う。
なっ……何故急に連絡先聞いて
くるの!?
隼人
「LINEと電話番号」
有無を言わせない口調。
望愛
「なんで……?」
隼人
「俺が聞いてんだから」
「つべこべ言わず教えろよ。」
強引……
理由も教えてくれない。
でも、どこか真剣で
拒否できない空気になる。
そんな事を頭の中で考えていると
横から、優希君が口を挟んできた。
優希
「……俺も。」
少し照れたように、でもはっきり。
優希
「望愛の、連絡先欲しい。」
二人の視線が、一斉に私に向く。
え、なにこの状況……。
逃げ場がない。
でも、不思議と嫌じゃない。
私は観念して、
スマホを取り出した。
望愛
「……わっ……わかりました。」
二人に順番に、連絡先を送る。
送信音が、
やけに大きく聞こえた。
そして、次にLINEをQRコードで
交換する。
こんな簡単に隼人君も優希君も
連絡先教えて良いのかな?
芸能人だし、しかも人気のアイドルなのに。
もう少し警戒心もった方が良いんじゃ
ないのかなと思った事は、
私の心の中に閉まった。
隼人
「……よし。」
確認して、満足そうに口角を上げる。
隼人
「そろそろ戻るわ。」
そう言って、踵を返す前に
私を振り返る。
隼人
「またな、”望愛”」
名前を呼ばれた瞬間、
胸がきゅっと締めつけられる。
望愛
「……あっうん。」
私がそう答えると、
鈴村君は意味深に笑った。
隼人
「次は、俺が誘うから。」
それだけ言って、
人混みに紛れていった。
残された空気は、
妙に熱を帯びていた。
優希
「……嵐のように通り過ぎたね。」
優希君が苦笑する。
私は、
まだドキドキしている胸を
押さえながら、首を傾げた。
なんで……こんなに胸がギューって
なるんだろう。
理由は分からない……
ただ……
今日という一日が、
確実に“普通じゃなくなった”ことだけは
はっきりと、分かっていた。
第4話 また友達になってよ。
終わり