鈴村君の裏の顔
違う……。
“好きみたい”じゃない。
……完全に望愛は、もう……
そこで、
はっきりしてしまった。
……好きなんだ隼人のこと。
本人が、
まだ気づいていなくても。
俺には分かってしまった。
望愛は……
隼人に触れられて……
声をかけられて……
距離を詰められて……
ちゃんと、心が揺れてるんだ。
それを、
俺だけが見てしまった。
俺は廊下に、
一人で立ち尽くす。
……俺は壁に背中を預けた。
指先が、じんと冷たくなる。
また、遅かったのか……
小学生の頃も……
今も……
ずっとこんな感じに
なってしまうのか?
望愛の隣にいたつもりで、
一番大事な瞬間を、いつも見逃してきた。
だけど……それでも。
視線を、
洗濯部屋から外す。
……今はまだ、完全じゃない。
望愛は、
自分の気持ちに、
まだ気付いていない。
なら…俺は……
拳を、そっと握る。
まだ、終わってない。
心臓が、
痛いくらい鳴っている。
でもそれは、諦めの音じゃなかった。
今度こそ俺は頑張るって決めたんだ。
望愛の赤くなった横顔が、
瞼の裏に焼き付いたまま。
俺は、静かに息を吸った。
この恋は……
まだ、終わってない……途中だ。
優希 side 終わり
洗濯物をすべて干し終えた私は、
両手を軽く払ってから、
リビングに顔を出した。
望愛
「……夕飯の材料、」
「買ってきますね。」
そう言うと、
隼人君、優希君、宮部君、
そしてマネージャーの石田さん
が一斉に顔を上げる。
隆二
「もう行くの?」
望愛
「オムライスにしようと思ってて。」
「時間かかるといけないので、」
「早めにスーパー行ってきます。」
隼人
「じゃあ気をつけてな。」
隼人君の声は、いつもより低い。
けれど、私はそれに気付かないふりをして、
コートを羽織り、玄関へ向かった。
望愛
「行ってきます。」
ドアが閉まる音。
望愛が出たその瞬間、
部屋の空気が、わずかに変わった。
静かになった……と言うより、
何かが張り詰めた。
俺はソファから立ち上がり、
優希の正面に立つ。
隼人
「なあ、優希。」
俺は、感情を抑えた声で
優希を呼ぶ。
優希は一瞬だけ顔を上げ、
すぐに視線を逸らした。
隼人
「最近さ……」
俺は腕を組み、じっと優希を見下ろす。
隼人
「お前、望愛の事……」
「呼び捨てで呼んでるよな?」
俺が直球に言葉にすると
ぴしり、と空気が鳴った気がした。
隆二が一瞬、驚いた表情をする。
マネージャーは何も言わず、
二人を見ている。
優希は少しだけ沈黙してから、
静かに口を開いた。
優希
「……約束だから。」
隼人
「約束…だと?」
俺の眉がわずかにぴくりと動く。
優希
「プライベートの時は、」
「タメ口で話すって。」
「後、俺の事も”優希”って」
「呼び捨てで呼んでもらうように」
「練習してもらってる。」
隼人
「……は?」
一瞬、隼人の表情が凍った。
優希は、隠す気もなく続ける。
優希
「向こうから言われたんじゃない。」
「俺が、そうしたいって言った」
隼人
「……随分と俺がいない間に、」
「踏み込んでんな。」
優希
「踏み込んでるのは、」
「隼人の方もだろ?」
優希の視線が、
真っ直ぐに俺を射抜く。
優希
「望愛が仕事中に近付いたり、」
「髪触ったり……。」
その言葉に、
隼人の口角がわずかに上がった。
隼人
「見てたんだ。」
優希
「……偶然な。」
「それに、そっちだって……」
「同じように、タメ口で話せや」
「呼び捨てで呼べって言ってんじゃん。」
二人の間に、
目に見えない火花が散る。