鈴村君の裏の顔
昨日まで、
私に近付いて髪に触れてきた人と、
同一人物だなんて信じられない。
その視線に気付いたのか、
隼人君は一瞬だけ、こちらを見る。
でも……
目が合った、その瞬間にはもう、
王子の表情に戻っていた。
も…もしかして私達互いに見ていたの?
胸が、少しだけきゅっと縮む。
一方、少し離れた場所で俺は、
モニター越しに自分の立ち位置
を確認しながらも、
視線だけは望愛を追っていた。
……スタッフに囲まれてる。
誰かが話しかければ、
望愛は丁寧に笑って答える。
その距離感が、
どうしても気になってしまう。
仕事だって分かってるのに。
”他の男に……触れられるなよ。”
そう心の中で、
誰にも聞こえない声で呟く。
スタッフ
「一旦、皆さん」
「休憩入りまーす!」
その声と同時に、
張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。
休憩とスタッフ達が言うと同時に
俺はタオルを受け取りながら、
マネージャーに耳打ちする。
隼人
「……望愛はどこだ?」
石田
「裏で小道具の整理してる」
その返事を聞いた瞬間、
俺の視線が自然とそちらへ向く。
望愛は、
段ボールを整理しながら、
額に滲んだ汗をハンカチで拭っていた。
その姿を見た瞬間……
「っ……!!///」
やっぱりのコイツは俺の心を乱す。
……仕事中でも、目が離せねぇ。
無意識に、
一歩近付きそうになる。
けれど……
スタッフ
「隼人さん、次のカット準備」
「お願いします!」
はっ……!!
スタッフの声で、我に返る。
隼人
「っ……了解」
仕事中だ……集中しろ!
自分が軽率な行動をすれば、
彼女を困らせる。
分かっているからこそ、
余計に苛立つ。
俺は隼人のその様子を、
少し離れた場所から、見ていた。
……やっぱり、
隼人も望愛の事心配だし、
近くに行きたくてどうしようも
ないんだ……。
胸の奥が、じくじくと痛む。
更に撮影は続いていて、
2度目の休憩に入っている。
スタッフの休憩中、
望愛が飲み物を配っていると
何人かのスタッフの人が声を潜めたのを偶然
聞いてしまう。
スタッフA
「ねえ……あの子さ」
「雰囲気、すごくいいよね。」
スタッフB
「一般人には見えない。」
スタッフC
「しかもさ……聞いた?」
「三上社長の妹さんなんだって……。」
スタッフB
「え、マジで?それでこの空気感?」
スタッフA
「納得かも……」
スタッフC
「絶対、タレントとか」
「モデルいけるよね。」
スタッフA
「その内、MIYABIプロダクション」
「とかが声かけそうだな。」
スタッフB
「いやいや、どうせ所属するなら」
「お姉さんのSkyプロダクション」
「になる方が確率高いね。」
スタッフC
「下手に隠してるの、」
「もったいないくらいだもんね。」
その声は小さかったけれど、
近くにいた俺と優希、
そして石田さんには、はっきり届いていた。
俺は……
表情を崩さないまま、
グラスを握る指に力を入れる。
優希は、
視線を落とし、
静かに息を吐いた。
きっと……優希も俺と同じ事思ってる
だろう……。
”……勝手なこと、言うなよ”って。
一方石田さんは、
スタッフの声を聞いてから
ほんの一瞬だけ目を細めてぽつりと呟いた。
石田
「……やっぱり、そう見えるか。」
石田さんが呟いた一言は俺の
耳に聞こえた。
は?
”やっぱりそう見えるか”って……
石田さんも望愛を、こっちの世界に
引きこもうとしてるって事なのか!?
優希は聞こえてないようで、スタッフの
ヒソヒソ話に耳を傾けている。
そんな超本人の望愛は、
そんな視線や思惑が交錯していることなど、
まったく知らない。
ただ……
……今日は、なんだか空気が重い。
理由は分からない。