鈴村君の裏の顔
胸の奥に残ったざらつきは、
簡単には消えてくれなかった。
隼人も同じ気持ちだろうと思う。
俺が知っている望愛は、
……三上社長の妹
……小学生時代の望愛。
そんな望愛がモデル、タレント……?
スタッフの声が、
頭の中で何度も反芻される。
望愛は、
ただ真面目に仕事をしているだけなのに。
笑顔で、一生懸命で、
けど……少し不器用で。
可愛くて愛おしい
それだけなのに……
業界に奪われる、
なんて言い方はしたくないけど……
喉の奥が、きゅっと詰まる。
俺が知ってる望愛は……
こういう世界に立つ人じゃない。
いや、正確には……
この世界に立てない、じゃない。
立ててしまうから、嫌なんだ。
きっと望愛がこの業界に入ってきたら、
一気に人気が出るのは目に見えてる。
それは良い事もあるし、悪い事もある。
変な虫がついたりしたらどうするんだ……。
俺は、視線を上げる。
少し離れた場所で、
望愛がスタッフに呼ばれている。
スタッフ
「三上さん、これお願いできる?」
望愛
「はい、大丈夫です!」
小さく頭を下げて、駆け寄るその姿。
誰の目にも留まるのは、当たり前だった。
小学生の時もそうだった……。
本人は全然気付いてないだけで……
あの時だって……ファンクラブとか
作られてたくらいだ……。
……俺だけの世界に、
いてほしいなんてそんなこと、
言える立場じゃない。
それでも……
……行くなって思ってしまう。
声にならない感情が、胸の奥で渦を巻く。
その時……
石田
「優希、戻って来い。」
「休憩は終わりだぞ。」
「カメラマンが、」
「次の段取り確認するって言ってるぞ。」
マネージャーの声が、現実に引き戻す。
優希
「……はい。」
短く答え、仕事の顔に戻る。
俺はクール担当。
感情を見せない男。
そうやって、
今まではやってきた。
――でも。
カメラの前に立っても、
どこか集中しきれない。
モニター越しに映る自分の表情は、
完璧なはずなのに。
(……ダメだ)
一瞬、
視線が逸れる。
その先にいたのは、
望愛。
こちらを見ていたわけでもないのに、
ただそこにいるだけで、
心が引っ張られる。
撮影が一段落し、俺と隼人は
翔太と隆二の個人撮影が終わる間
待機をする。
隼人が、
ペットボトルを片手に歩いてくる。
「……なあ。」
隼人の声はちょっと苛立ちが
含んだ声だった。
俺は、顔を上げずに答える。
「何?」
「さっきの、スタッフの話し。」
二人の間に一瞬の沈黙。
「隼人も……聞こえてたんだ。」
「聞こえねぇわけねぇだろ」
隼人は、苛立ちを隠そうともせず
壁にもたれた。
そして隼人は言う。
「どう思う?」
隼人の問いかけは短い。
俺は、しばらく黙ってから
ぽつりと答えた。
「……嫌だよ。」
それだけだった。
けれど、その一言に、
すべてが詰まっている。
隼人は、小さく鼻で笑った。
「だろうな。」
「……隼人はどうなんだよ。」
優希の質問に俺は一瞬、
言葉を選ぶように間を置き……
「仮に望愛が芸能界に入って、」
「他の男に言い寄られてたとしても」
「取られる気、一ミリもねぇよ。」
俺は断言した。
その声音は、王子でも、
冗談でもない。
完全に、素の“俺様”そのもの。
「俺が先に見つけた。」
「俺が気に入った。」
「それだけだ。」
俺は隼人の迷いのない言葉に胸が、
ちくりと痛む。
「……その考え……ズルい。」
「知るか。」
短く返される。
二人の間に、静かな火花が散る。
私は、使用済みの紙コップやお皿を
ゴミ袋にまとめていた。
なんだか……視線を感じる。
視線を感じた私は顔を上げる。
目が合ったのは優希君だった。