鈴村君の裏の顔
すぐに視線は逸らされる。
えっ?……
目が合ったのは気のせい?
私……
なんでこんなに落ち着かないんだろう。
仕事が終わりに近付くにつれ、
現場の熱気は、少しずつ収束していく。
雑誌撮影が、
最後のシャッター音とともに終わった。
カメラマン
「――はい、以上で本日の撮影終了です!」
「お疲れさまでしたー!」
その一声に、
張り詰めていた空気が一気にほどける。
スタッフ
「お疲れさまでした!」
スタッフたちの声が重なり、
MOONのメンバーも自然と表情を緩めた。
MOON全員
「みなさんお疲れ様でしたー!」
MOONメンバー全員、
カメラマンやスタッフに頭を下げて
控え室に行き、帰る支度をした。
俺は、さっきまでの完璧な王子の顔から、
一瞬で力を抜いた笑みになる。
隼人
「……はぁ、やっと終わった。」
隆二
「切り替え早すぎだろ(笑)。」
隆二が笑いながらツッコむと、
翔太は大きく伸びをする。
翔太
「今日、結構集中したよなー。」
「あー腹減った。」
優希
「翔太それ、さっきから何回目?」
優希は淡々と返しながらも、
どこか肩の力が抜けている。
私は、スタッフの皆さんに
静かに頭を下げた。
望愛
「お疲れ様です。」
「今日はありがとうございました。」
スタッフA
「こちらこそ助かったよ。」
スタッフB
「ほんと、気が利くよね!」
スタッフC
「また機会あったらよろしく!」
スタッフからのそんな言葉に、
私は微笑む。
望愛
「はい!是非。」
「でわ、お先失礼いたします。」
やがて、
全員が着替えを済ませ、
私もみんなと合流し、
外に停まったワゴン車へ向かう。
石田
「じゃ、乗るぞー。」
石田さんの声に促され、
一列になって車内へ乗り込む。
私は少し迷った後、
一番後ろの席に座った。
その前に、
森下君と宮部君
前方には、
隼人君と優希君。
車が動き出すと、
自然と会話が始まる。
翔太
「今日のカット、結構いいの撮れてたよな?」
森下君が言うと、
宮部君が頷きながら喋る。
隆二
「うん、表紙候補って言われてた。」
隼人
「さすが俺達だな。」
隼人君が軽く言うと、
優希君がすかさず冷静に返す。
優希
「自分で言う?」
そのやり取りに、
車内に小さな笑いが起きる。
翔太
「三上さんはどうだった?」
「初めての現場。」
森下君は私が座っている後ろを振り返る。
望愛
「えっ、あ……」
まさか、自分に話を振られるなど
思ってもいなかったから少し驚いてから、
ゆっくり言葉を選んだ。
望愛
「正直、緊張しましたけど……」
「すごく勉強になりました。」
翔太
「でしょ?」
「現場の空気、」
「一回入ると忘れられなくなるから。」
望愛
「……そう、なんですか?」
翔太
「そうそう。」
みんなとの何気ない会話。
けれど……
俺ははバックミラー越しに、
望愛をちらりと見た。
優希もまた、何も言わず
視線を前に向けたまま、
耳だけを傾けている。
やがて、
ワゴン車は望愛の住む住宅街に入り、
望愛の家の前で止まった。
石田
「望愛さん、着きましたよ。」
望愛
「あっ、はい。」
望愛は、
シートベルトを外しながら言う。
望愛
「今日はありがとうございました。」
石田
「こちらこそありがとうございました。」
「急なお願いを聞いてもらって、」
「凄く助かりました。」
隆二
「望愛ちゃん気をつけてな!」
隆二が手を振る。
翔太
「望愛ちゃんまたなー!」
翔太の声。
って……何故、今になって”望愛ちゃん”
って翔太も隆二も呼び方変えたんだ!?
隼人
「おい!」
「翔太、隆二!なんで今になって」
「望愛の事、望愛ちゃんって」
「呼び方変えたんだ?」
翔太
「そっちの方が気楽で良いでしょ?」
隆二
「そうそう!」
「それに、望愛ちゃんもこの方が」
「変に俺らに気を使わなくて」
「済むのかなってな!」
翔太
「まぁ、望愛ちゃんが嫌なら」
「三上さんに戻すけど。」
望愛
「私は、全然大丈夫ですよ!」
「むしろ、そこまで考えて」
「くださってありがとうございます。」
「嬉しいです!」
隆二・翔太
「じゃ、決定だな!」
隼人
「まぁ、望愛がそのほうが」
「良いならいいけどよ。」
最後に、俺はく言う。
隼人
「……お疲れ。」
「すぐそこだけど気をつけて帰れよ。」
優希も、一拍遅れて続けた。
優希
「望愛……お疲れさま。」
「今日、ゆっくり休んでね。」
望愛は、一人一人の顔を見て、
小さく微笑んでいた。
望愛
「今日は、本当に」
「ありがとうございました。」
「お疲れ様でした。」
ドアが閉まり、
ワゴン車が再び走り出す。
私はしばらく見送ってから、
家の中へ入った。
玄関のドアを閉めた瞬間、
ふうっと息が漏れる。