鈴村君の裏の顔
さっきまで大学の正門前で、
望愛の手首を掴まれたあの感触が、
まだ残っている気がする。
……心臓、ほんとに壊れるかと思った。
一方肝心の望愛は、
公園のベンチを見つめながら
少し首を傾げていた。
「ねえ……」
「優希君、とりあえずキャップ」
「だけでも被って。」
「バレたらまずいでしょ?」
「あっ……うんそだね。」
俺は再びキャップを頭に被せた。
「っで……質問なんだけど……」
「優希君、なんで大学まで来たの?」
そして純粋な疑問を投げかけてきた。
責めるでもなく、疑うでもない。
ただ、不思議そうに。
その一言と仕草で
俺の心臓はまた一段、ドクンと跳ねた。
「……あ」
一瞬、言葉に詰まる。
ど……どう答える?
隼人と望愛が良い感じになってる
夢を見たからって言う?
それを見て怖くなったからって言う?
いやいや……
そんなこと、今は言えない。
言えるはずない……。
でも、俺の気持ちをこれ以上
隠す気も、なかった。
俺は、そっと息を整えてから口を開いた。
「……少し、話してもいい?」
望愛は一瞬驚いた顔をしてから、
こくりと頷いた。
「うん、いいよ。」
「優希君、もしかして」
「話しをする為にわざわざ来てくれたの?」
「まぁ……そんなとこかな。」
ベンチに並んで座る。
少しだけ、望愛は俺との距離を空けて
座った。
それが逆に、の胸を締め付けた。
「俺がさ……」
俺は、遠くを見るように視線を空に向けた。
優希
「なんで芸能界に入ったか、」
「話したことなかったよね?」
「うん。」
「実は……」
俺は緊張で指先をぎゅっと握る。
「最初は、自分の意思じゃなかったんだよ。」
「芸能界に入ったきっかけ。」
望愛は静かに耳を傾けた。
「中学生の時にさ……」
「親が勝手に、ドリンクの」
「CMオーディションに応募したんだよ。」
「えっ!?勝手に?」
「うん、勝手に応募されてた(笑)。」
苦笑しながら、俺は続ける。
「で、なぜか受かって」
「よく分からないまま、現場に立って……」
「でも、そのあと別のプロダクション」
「に所属してたけど全然売れなかった。」
ぽつり、と落とすように。
「正直、向いてないのかもって思ってた。」
「だから、その事務所から俺は抜けたんだ。」
公園の砂利を、靴先で軽く蹴る。
「そんな時にさ……」
俺は淡々と話しを進めていく。
「望愛も知ってるの通り、」
「Skyプロダクションっていう」
「新しい事務所が、男性アイドルの」
「オーディションをやるって聞いて……」
「まさか……優希君の」
「お父さんとお母さん……」
「……そのオーディションも?」
「そう。そこも親が勝手に(笑)。」
望愛はペットボトルのお茶を口に含ませてたのが
思わず吹き出しそうになり、
慌てて口を押さえて慌てていた。
笑いそうなのを必死に堪えてる姿も
可愛いくてたまらない。
「……ごめん。」
「よっぽど、優希君のお父さんと」
「お母さんが、優希君をデビューさせたい」
「って気持ちが必死なのが微笑ましくて」
「つい、笑いそうに……。」
「いいよ。」
「だって、笑っちゃう話し出し(笑)。」
「それに、今となっては感謝してるんだ。」
俺は小さく笑った。
「んで、書類選考が通って」
「二次面接で、社長と」
「プロデューサーに会った時……」
「社長の名前を聞いたんだ……」
俺は軽く息を吸って吐いて、
話しを続けた。
「三上……紗衣、って。」
私の指がぴくりと動く。
あっ……お姉ちゃんの名前だ。
「その瞬間……」
「俺は思ったんだ……。」
優希君はゆっくり、
私の反応を確かめるように言葉を紡ぐ。
「”三上”ってつくなら」
「もしかしたら、」
「望愛の親族かもしれない、って。」
私は、息を呑んだ。
「……」
そして優希君は、真剣な表情で私を見ながら
更に話しを続ける。
「小学生の時、」
「急にいなくなった俺を」
「望愛は、もう忘れてるかもしれない。」
「でも……」
俺は、拳を握りしめる。