鈴村君の裏の顔
「アイドルになって」
「知名度を上げたら」
「テレビ越しでもいいから」
「いつか、望愛が俺に」
「気付いてくれる気がしたんだ。」
声が、少しだけ震えた。
ヤバい……自分で言っておいて緊張する。
「だから、このオーディション」
「絶対に受かろうって決めた。」
「それで……」
顔をまっすぐ上げる。
「実際、アイドルになってみたら」
「思ってたより、ずっと楽しくて」
「誇りも持てて」
「誰かを元気にできる
「仕事だって、思えるようになった。」
俺は最後に小さく笑った。
「もっと、色んな人を元気にできる」
「そんなアイドルになりたいって……」
「今は、本気で思ってる。」
言い終えたあと、
胸の奥が、じん、と熱くなる。
……言った。
何故、アイドルになったか。
きっかけが望愛の事だったことも。
隣を見るのが、少し怖い。
「……そんな理由だったんだね。」
望愛の声は、驚くほど穏やかだった。
「知らなかった。」
そう言って、俺を見る。
その瞳は、優しくて、真っ直ぐで。
……あ
俺の心臓が、また跳ねる。
だめだ……こんなに愛おしい感情が
溢れてしまいそうで、
どうにかなりそう……。
望愛の無自覚にはいつも、
悩まされる。
もう……本当……好き、大好き。
「優希君、すごいね。」
ぽつりと、望愛が言う。
「ちゃんと、誇り持ってるし」
「私、家政婦になってから」
「前よりもテレビを観るようになって」
「MOONが出てるのも観るけど、」
「かっこいいなぁって思う。」
「……そう///?」
「うん!」
望愛は満面に微笑む。
その笑顔に、
俺の胸はいっぱいになる。
好きだ……
やっぱりどうしようもなく、
好きなんだ。
でも、望愛はまだ……
自分の気持ちに、気付いていない。
だから……
俺は、胸の奥で静かに決めた。
先に、動く……。
夢を見た事が現実にならないように
するんだ。
公園の夕方の風が、
二人の間をすり抜けた。
公園の空気は、
さっきまでの慌ただしさが
嘘みたいに静かになる。
遠くで子供達の笑い声がして、
木々が風に揺れる音が、
ゆっくりと耳に届く。
ベンチに座っていた優希君が立ち上がる。
私もつられて立ち上がり優希君の
横顔を見ていた。
――なんでだろう。
さっきから、優希君の様子が少し変だ。
いつもみたいに余裕のある笑顔じゃなくて、
どこか真剣で、
緊張しているようにも見える。
優希君は一度、空を見上げてから、
私の方を向いた。
その瞬間の彼のまっすぐに
私を見る瞳から逸らす事ができなくなっていた。
さっきまで俺がが語っていた夢の話。
芸能界に入った理由。
望愛に再会したかったという想い。
その全部が、まだ空気の中に残っている。
俺は、ぎゅっと拳を握りしめていた。
胸の奥が、うるさく鳴っている。
――言わなきゃ。
今、言わなかったら……
また、タイミングを失う気がした。
「……望愛。」
優希君のその声は、驚くほど落ち着いていて、
でも、わずかに震えていた。
「はっ……はい。」
私は緊張のあまり、
敬語に戻ってしまった。
「さっき話したことさ……」
「俺がアイドルになった理由。」
私は小さく深呼吸をし頷く。
「うん。」
優希君は、少しだけ苦笑いを浮かべた。
「正直に言うとさ……」
「全部、望愛が始まりだった。」
胸が、どくん、と跳ねる。
それって……どーいう意味?