鈴村君の裏の顔

そして俺は一歩、
また一歩と望愛との距離を詰める。
さっきよりも近い距離。


「いきなり“彼女になって”」
「は無理でもいい。」


望愛は、きょとんとする。


「え……?」

俺は、望愛の逃げ道を塞ぐように、
でも威圧しない距離感で立つ。


「お試しでいいから」
「付き合ってよ。」


「おっ……お試し?」


「そう、お試し。」

俺は小さく笑った。

「付き合うって言っても、」
「いきなり完璧な恋人になれって」
「意味じゃないよ。」

言葉を選びながら、
でも確信を持って続ける。



「望愛が俺を、」
「“友達”とか“アイドル”じゃなくて、」
「ちゃんと俺を“男”として見る時間な。」

私の心臓が、また跳ねる。
ちょっ……優希君……本気!?

「そ、その……」

「嫌なら、やめていい。」


そう言いながら、
優希の距離は、なぜか更に近い。


「でもさ……望愛?」

視線が、真っ直ぐ絡む。

「俺の事、嫌いじゃないんでしょ?」

そう言って、優希君は更にじわじわと
距離を狭めて来る。
そして逃げ場を失った私は、思わず後ずさる。


「……う。」


「それに”好きな人”も、いない。」

さらに一歩。

「それと俺のこと、信用はしてる。」

また一歩。

「ここまで条件揃ってて、」
 「“お試し”すらダメなの?」

私の背中が、木の幹に触れた。

っつ////!!

ちっ……近い。

とにかく、近いすぎる!

優希君の真剣な目と告白と提案に、
胸がざわざわして、頭がうまく働かない。


「ちょ、ちょっと待って……!」

望愛は慌てて両手を上げる。
すると、優希君はニヤリと何か
企んだ笑みを私に向けて言う。

「俺にこんなに論理的に攻められて……」
「逃げ道を塞がれて困ってる?」

悪びれもせず、優希君は聞いてくる。


「……塞がれて……困ってるよ。」


正直に答えてしまう自分に、
私は内心で驚いた。
だって……本当に困るよ。
こんな……優希君、初めてみる。

優希君は、
ほんの一瞬だけ表情を緩めた。


「じゃあ、最後の一押しだね。」

えっ……!?
私、今……困ってるって言ったのに、
全然言葉伝わってない?!
最後の一押しって!?
なにを言うつもりなの……?

だっ……誰か、暴走優希君を止めてください!


「俺、望愛のこと大事にする。」

「お試し期間中でも、」
 「嫌なことは絶対しないし、」
 「嫌って言われたらちゃんと止まる。」

「それに……」

少しだけ、照れたように視線を逸らす。

「俺が本気で好きなのは、望愛だけ。」

その一言が、
私の胸の奥に、すとんと落ちた。

優希君の声が、激甘すぎる。
こっ……こんなの、ファンの子見たら
私……海に沈められてしまう……。

ってか……こうやって優希君はドラマとか
CMの時、甘い演技をしてるのかな?

こんなの……ズルい……。

本当……ずるい。


「……ずるいよ、優希君。」

ぽつりと零す。

優希君は、くすっと笑った。


「褒め言葉として受け取る。」
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