鈴村君の裏の顔
私は、しばらく黙り込んだ。
断らなきゃ、と思うのに、
理由が見つからない。
それに……優希君がこんなに
私の事を想ってくれてるのに、
断ったらどうなっちゃうのかな……。
胸の奥が、変に温かい。
優希君の気持ちに……向き合って
みよう。
「わかった……。」
「……お試し、で良いなら。」
私はやっとのこさで出た言葉。
次の瞬間――

「っしゃあ……!!」
「ありがとう!」
俺は、思いきり望愛の両手握りしめていた。
顔が、分かりやすく明るくなってるのが
自分でも感じる。
ヤバい……嬉しい!
ほぼ強引に望愛に言い寄った形には
なったけれど……。
それでも、やっと一歩前進した事が
凄く嬉しい。
「ほんと!? 今の、」
「聞き間違いじゃないよな!?」
「ゆっ!優希君!」
「ちょ、ちょっと静かに……!」
「自分が人気アイドルだって事」
「もっと、自覚して!」
「バレたらどーすんの!?」
私は慌てて優希君の暴走を制止する。
望愛が必死に、言うけれど
俺……もう……嬉しさが隠しきれない。
「ごっ……ごめん、でも。」
「やばい……」
小さく呟きながら、胸を押さえる。
「今、人生で一番嬉しいかもしれない。」
「大げさだよ……。」
「大げさじゃないよ。」
優希君は何かを閃いたように
急に真面目な顔になった。
そして、再び真面目な話しに戻る。
「じゃあ、お試し期間の条件を」
「決めるね。」
優希君は指を一本立ててから言う。
「お試し期間は、」
「3ヶ月にするね。」
私は少し考えてから、こくりと頷いた。
「……わかった。」
その返事に、優希の目が一瞬で輝く。
「次、ルール。」
二本目の指を立てた。
「俺のことは必ず“優希”って」
「呼び捨てにする事。」
「えっ!?」
「練習して良いって言ってなかった?」
「あれはだって、友達だから。」
「でも、今日から俺達はお試しとは」
「言え、彼氏彼女だからね。」
「呼び捨ては絶対だよ。」
「仕事中でも、プライベートでも関係なく。」
「それと、仕事中の敬語も禁止。」
「ねえ、それ地味に」
「難易度高くない……?」
「それは慣れて。」
優希君は即答だった。
そして三本目の指が立たれる。
「連絡は毎日ね。」
「短くてもいいから。」
そして次四本目の指が立つ。
「恋人らしく、」
「手を繋いだりする。」
「!?!?!?」
「嫌ならその時に言って。」
さらっと言うが、目は真剣。
「でも、俺は繋ぎたいから」
「嫌って言っても繋ぐけど。」
「以上だよ。」
「……ルール少ないのに」
「破壊力強いんだけど。」
「俺は愛が重いから(笑)。」
優希君は悪びれずに言う。
私は、思わず笑ってしまった。
「ほんと……強引(笑)。」
「知ってる(笑)。」
「俺も、この辺は隼人に似てるのかもな。」
優希君の言葉に何故か、説得力を感じた。
でも、その強引さが、なぜか嫌じゃなかった。
なんだか、不思議だなぁ。
「……じゃあ」
私は、小さく息を吸ってから言う。
「3ヶ月、よろしくお願いします。」
その瞬間、優希は満面の笑みを浮かべた。
「こちらこそ!」
そして、少し照れたように付け加える。
「……望愛、好きだよ。」
呼び捨て……。
最近は、呼び捨てで呼ばれてるけれど、
今日からまたちょっと違った
その響きと、少女漫画みたいな展開に
私の胸がきゅっとなった。
私は、夕焼け空を見上げた。
――こうして。
“お試しの恋人”という、
少し歪で、でも確かに甘い関係が、静かに始まった。