鈴村君の裏の顔

──寮に帰宅


夕方の空気を切り裂くみたいに、
俺は寮の玄関を勢いよく開けた。

優希
「ただいま!」

俺は無意識に明るい声になる。
ヤバっ……嬉しい気持ちが、隠しきれない。


その瞬間……
リビングにいた全員の視線が、
一斉に俺の方へ向いた。

ソファには隼人。
テーブルに資料を広げている翔太と隆二。
そして、その奥で腕を組んで立っている
石田さん。

翔太
「……うわ、何そのテンション。」

最初に口を開いたのは翔太だった。

隆二
「ライブ終わりでもそんな顔しねぇぞ。」
「いや、わかりやすすぎだろ(笑)。」


隆二が苦笑いしながら、ツッコミを入れた。


そして隼人は何も言わず、
ただじっと俺を見つめていた。


その視線がもの凄く鋭く、
威圧感が滲み出ていた。

優希
「……なんだよ。」

優希は一瞬だけ言葉に詰まり、
でも隠しきれない高揚感が、口元に滲んだ。

その様子を見て、
石田さんが小さくため息をつく。

石田
「はいはい、その前に。」

呆れながら石田さんは手を叩いた。

石田
「優希も帰ってきた事だし、」
「来月のスケジュール、軽く打ち合わせるぞ。」


翔太
「今ですか?」

翔太が目を丸くする。

石田
「今だ。どうせ落ち着かせないと、」
 「優希はこのまま爆発するだろ。」


図星だった……
俺は、図星につつかれないようにように
誤魔化す。


優希
「え、そんなに?」
「俺、至って今日も普通ですよ。」

と言いながらも、大人しくソファに座る。


翔太・隆二
「普通じゃーねぇわ!」

翔太と隆二がシンクロをして、
俺にツッコミをしてくる。

石田
「とりあえず、打ち合わせするぞ。」



打ち合わせは淡々と進んだ。

雑誌、テレビ、イベント。
スケジュールが読み上げられるたび、
俺は一応頷いてはいるものの、
心ここにあらずなのが丸わかりだった。



俺は、心あらずと言わんばかりの
そんな優希の表情を横目で見ながら、
内心で舌打ちをする。

――何があった。

すげー無性にイラつく。


打ち合わせが終わり、
石田さんが資料を閉じたタイミングで、
優希がソファからスっと立ち上がった。


優希
「……石田さん。」

石田
「ん?なんだ。」

優希
「ちょっと、大事な話があって……」


その優希の声音が、急に真剣になる。
なんだこれ……イヤな予感しかねぇー。
やけに胸がザワつき始める。

優希
「メンバーにも、聞いてほしい。」

一瞬、周りの空気が張り詰めた。

石田さんは優希の表情を見て、
小さく頷く。

石田
「いいだろ。」


翔太
「俺もいいよ、聞くよ。」
「どうせ隠し事できない顔してるしな。」


翔太がぼそっと言うと、隆二が頷く。


俺は深呼吸してから、口を開いた。


優希
「今日……望愛に会って来た。」


俺が望愛の名前をが出した瞬間……

隼人の目が、はっきりと細くなった。

優希
「望愛が今日休みだから」
「大学まで行ってさ……」

翔太
「……待ち伏せかよ!」

翔太が即ツッコミを入れる。

優希
「そ……そうだな。」
「結果的に、そうなるな。」


隆二
「お前、すげぇよ。」


優希は苦笑しつつ、
公園での出来事を、一つずつ話し始めた。

望愛の親友を紹介してくれた事……

望愛に告白した事……


話が進むにつれ、
翔太は口をぽかんと開け、
隆二は腕を組んで真剣に聞き入る。

そして……

優希
「お試しで、付き合うことになった。」

その一言で、
部屋の温度が一気に下がった。

隼人
「……は?」

最初に声を出したのは、やはり隼人だった。

優希はまっすぐ隼人を見る。

優希
「……3ヶ月。」
「お試し期間3ヶ月で」
「俺の事を好きにさせる。」

少しの沈黙。

次の瞬間……また、隼人から口を開いた。

隼人
「それ、付き合ってる内に入らねぇよ。」

隼人の声は低く、冷静だった。

俺の眉が、ぴくりと動く。

隼人
「それに……」

隼人は立ち上がり、俺の真正面に立つ。

隼人
「それ聞いて、俺が引くとでも思った?」

空気が張り裂けそうになる。

優希
「思ってない。」

本心は、これを聞いて隼人が身を
引いてくれたらどれだけ良いかと
思ってたけれど……
そう簡単にはいかない事は重視中承知している。


俺も一歩も引かない。

隼人
「ならいい。」

隼人は、はっきりと言い切った。

隼人
「俺は、絶対に引かない。」

翔太
「……っ」
「やっぱり望愛ちゃん関係か……。」


翔太が思わず息を呑んでポツリと呟く。


隆二は、二人を交互に見て、静かに言った。

隆二
「まぁ……予想通りだけどな。」
「二人が望愛ちゃんの事で引かないのは。」


隼人
「だろ?」

隼人は目を逸らさない。

隼人
「それに……」
「優希がどんな立場だろうが、」
「どんな形であろうが関係ねぇ……」
「俺は、望愛を諦めない。」


その宣言に、
優希の胸が、きゅっと締めつけられた。


優希
「……望愛は……」

優希は静かに言う。

優希
「俺と向き合うって言ってくれたんだ。」



その言葉に、隼人の目が一瞬揺れた。
< 67 / 90 >

この作品をシェア

pagetop