鈴村君の裏の顔

だが、すぐに隼人は不敵に笑う。

隼人
「だから?」
「俺は正々堂々」
「望愛を振り向かせるだけだ。」
「その後は望愛が誰を選ぶかだ。」


石田さんは、
俺と隼人の様子を黙って見つめていた。

そして、ふっと小さく息を吐く。

石田
「……面倒なことになったな。」

そう言いながらも、
どこか面白がっているような色が、
目に宿る。

石田
「仕事に支障出すなよ、それだけだ」

優希
「出しません!」

優希は即答した。

隼人も、同時に言う。

隼人
「当たり前だ!」
「俺は、仕事も恋愛も一切手を抜く」
「気は全くない。」

優希
「石田さん、俺もです!」

その一致が、逆に緊張感を増す。

夜は、静かに更けていく。

同じ屋根の下で、
同じ人を想いながら、
誰一人、引く気はなかった。

――この恋は、
もう戻れないところまで来てしまった。

そんな予感だけが、
寮のリビングに、重く残っていた。






*隼人side*


ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

俺は自室に入るなり、
足元のスリッパを無造作に脱ぎ捨て、
壁に背を預ける。

……クソ!

喉の奥で、低く舌打ちした。

胸の奥が、ざわついて仕方ない。
さっきまで平然とした顔でリビングに居た分、
抑え込んでいた感情が、一気に溢れ出してくる。

――お試しで、付き合う事になった。

その言葉が、頭の中で何度も反響する。

優希の、あの隠しきれない表情。
浮かれているくせに、妙に真剣な目。

”3ヶ月で好きにさせる”なんて、
まっすぐで、覚悟のこもった言葉。

「はは……笑えねぇよ。」

吐き捨てるように呟き、
俺はベッドに腰を下ろした。

肘をつき、手で顔を覆う。

瞼の裏に浮かぶのは――
望愛の姿。

仕事中、きっちり距離を取ろうとするくせに、
ふとした瞬間、隙だらけになる表情。


視線が合うと、
一瞬だけ息を止めたみたいに固まるところ。

気付けば、ちゃんと戸惑って、
ちゃんと顔を赤くする。

……それが、たまらなく可愛くて。
キスしたくなる衝動を抑える俺。


「……なんでだよ。」

低く、荒れた声。

確かに手応えはあったはずだ。

家政婦として。
仕事として。
それでも、距離は確実に縮んでいたはずだ。

洗濯物を干していた背中。
触れた髪の感触。
一瞬だけ絡んだ視線。

あの時、確かに望愛は俺に揺れていた
はずなのに……俺の自惚れか?

いや……絶対、手応えはあった。

それを、
優希は横から掬い取った。

「……引くわけねぇだろ。」

誰に言うでもなく、呟く。

お試しだろうが、何だろうが関係ない。

形がどうであれ、
望愛の気持ちがまだ決まっていないなら……
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