鈴村君の裏の顔
「奪うだけだ……。」
俺は立ち上がり、
机の上に置いてあったスマホを手に取る。
画面に表示される、
“三上 望愛”の名前。
連絡先を交換した日のことが、
自然と蘇る。
優希と並んで、
二人分の視線を浴びながら、
戸惑いながらも教えてくれた、あの時。
……あの瞬間から、
もう戦いは始まっていたのかもしれない。
胸の奥が、きしむ。
苛立ちと焦り。
それでも消えない、謎の確信がある。
きっと望愛は
俺の方に気持ちが向いてくれる。
そう思うと、
不思議と恐怖はなかった。
負ける気もしない。
俺は窓辺に立ち、
夜の街を見下ろす。
ガラスに映る自分の目は、
仕事用の“王子”の顔じゃない。
もっと剥き出しで、
もっと欲深い男の目。
「……待ってろよ、望愛。」
低く、確かに呟く。
お試しの恋人?
俺はそんな生温い関係で、
終わらせるつもりはない。
誰のものになるか――
その答えは、
俺が望愛を振り向かせる。
静まり返った部屋に、
俺の荒い呼吸だけが、
しばらく残っていた。
隼人 side 終わり
*望愛side*
玄関のドアを閉めた瞬間、
ふっと肩の力が抜けた。
「……はぁ……」
小さく息を吐いて、
靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。
家の中は静かで、
さっきまで優希君と居た公園の空気が、
まるで遠い出来事みたいに感じられた。
バッグを置き、
リビングのソファに腰を下ろす。
――今日、色々ありすぎた。
頭の中が追いつかない。
優希君に告白されて、
抱きしめられて、
お試しで付き合うことになって……。
「……私、何してるんだろ。」
独り言みたいに呟いて、
クッションをぎゅっと抱きしめる。
嫌じゃなかった……
それどころか、
優希君があんなに真剣な顔で
想いを伝えてくれたことが、
胸の奥で、じんわりと温かく残っている。
……なのに。
なぜか、
落ち着かない。
私はバッグからスマホを取り出し、
少し迷ってから、
由佳の名前をタップした。
コール音が鳴る。
数秒後――
《もしもし? 望愛!?》
電話越しの声は、
相変わらず元気いっぱいだった。
「由佳……」
《さっきは、急に帰っちゃってごめんね。》
「全然いいよ!用事があったんだから。」
《それよりさ!その後どうなったの!?》
……やっぱり、そこ聞くよね。
私は苦笑しながら、
今日あった出来事を、順番に話し始めた。
公園で二人きりになったこと。
優希君が、昔の話をしてくれたこと。
そして――告白。
《……は!?》
由佳の声が、一段階大きくなる。
《ちょっと待って!?》
《優希君が!?告白!?》
「う、うん……」
《それで!?それで!?》
《……お試しで、》
《付き合うことになっちゃった。》
一瞬の沈黙。
そして――
《ええええええええ!?!?》
耳が痛くなるほどの大声。
「ちょ、ちょっと!近所迷惑!」
《ごめん!ごめん!》
《でも、それはもう事件でしょ!!》
由佳は興奮したまま、
一気にまくしたてる。