鈴村君の裏の顔

《だってさ!》
《私の好きな推しと、》
《大好きな親友が付き合うとか……》
《最高じゃん!!》


「だから、お試しだよ?3ヶ月の。」

《それでもだよ!》
《てかさ、望愛。》
《優希君、絶対ガチじゃん!》
《あれは望愛の見る目は》
《本気の男の目だったよ》


「……そう、かな?」


《そうに決まってるって!》
《で?望愛はどう思ってるの?》


その質問に、私は言葉を詰まらせた。

私……どう、思ってる……?
正気……嫌な気持ちにはならなかった。
だけど……

「……わからない。」

正直な答えだった。

「大切な友達だし……」
「それに超人気アイドルだし……」
「それに……急すぎて……」
「頭が追いつかないの。」

《でも、嫌じゃなかったんでしょ?》

……否定できない。

「うん……」

《なら、いいじゃん》
《お試し期間なんでしょ?》
《その間に、ちゃんと考えなよ》

由佳の声は、
いつもより少し落ち着いていた。

《無理しなくていいし》
《誰かに流される必要もない》
《望愛の気持ちが、一番だからね。》


「……ありがとう、由佳。」

胸の奥が、少し軽くなる。

《まぁさ……》
《色々波乱はありそうだけど(笑)。》

由佳は、意味ありげに笑う。

《あの寮、絶対平和じゃないでしょ(笑)。》

「……それは、うん(笑)。」

思わず苦笑した。

《だろうね(笑)。》
《なにかあったら話し聞くからね。》
《じゃ、今日はゆっくり休んでね。》
《また明日ね。》

「うん、ありがとう」
「おやすみ。」

通話が切れる。


スマホの画面が暗くなって、
部屋に、静けさが戻ってくる。

「……はぁ……」

ベッドに腰を下ろして、
望愛は小さく息を吐いた。

頭の中が、少しだけ騒がしい。

由佳の声……興奮した笑い声。
”最高じゃん”って言葉。

お試しで、付き合う。

その言葉を、改めて心の中でなぞる。

……お試し……

本気の恋人じゃない。
あくまで“期間限定”。

そう、何度も言葉がリピートされる。

だって――
優希君は、国民的人気アイドルで。
みんなの“優希”君なんだから。

私はただの、普通の大学生で、
家政婦のバイトをしてるだけ。

釣り合わない、なんて
考えなくても分かってる。

だからこそ、
”お試し”って言葉に、少し救われた。

重すぎない。
期待しすぎなくていい。
終わりも、最初から決まっている。

……はず、なのに。

胸の奥が、少しだけきゅっとする。

嬉しいような。
不安なような。

その感覚を誤魔化すように、
望愛はコートを脱ぎ、部屋着に着替えた。

鏡の前で、ふと自分の顔を見る。

顔……赤い。

「……なんで赤いの。」

自分に問いかけても、答えは出ない。

優希君に抱きしめられた時の感触が、
まだ腕に残っている気がする。

優しい声。
真剣な目。
少し強引な距離。

「……優希君……」

小さく名前を呼んで、
すぐに首を振った。

だめだめ考えすぎ。

そう思った、その瞬間……



不意に、
別の顔が浮かんだ。

鋭い目。
意地悪そうな笑み。
低い声。

”お前、可愛いな。”
”そんな顔で言われたら”
” 余計、手ぇ出したくなるんだけど。”


私……何、思い出しちゃってるの!?

「……っ/////。」


鈴村隼人君。

どうして……どうして……

隼人君が出てくるの!?

優希君のことを考えていたはずなのに。


「もう……意味わかんない。」

心臓が、更に強く跳ねる。

隼人君の顔を思い浮かべると、
なぜか、胸の奥がもの凄くざわつく。

落ち着かなくなる。

安心とも、不安とも違う。

ただ……
“意識してしまう”感覚。

「……今日のせいなのかな。」
「やっぱり……私、変だ。」

そう呟いて、
望愛はベッドに横になる。

天井を見つめながら、
ゆっくり目を閉じた。

優希君とお試しで付き合うことになった。

それは、事実。

でも――

隼人君が、
そのことをもう知っているなんて。

そして、
その事実が、
これから自分の気持ちを
大きく揺らしていくなんて。

今の望愛は、
まだ、何も知らない。

ただ、
胸に残った余韻と、
理由の分からないざわめきだけを抱えて……

私は静かな夜に、
そっと身を委ねるのだった。





望愛 side 終わり

第6話 お試しの恋人 終わり
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