鈴村君の裏の顔

大和君は、
一瞬きょとんとしてから
楽しそうに笑った。


「へぇ……」

「ますます、面白いね!」

その視線が、
じっと私を捉える。

――この人。

見た目は爽やかなのに、
やる事が隼人君より強引で、
距離感が、近すぎる。

強引で、甘くて……

心臓が、また早くなる。

でもそれは――
さっきの隼人君とは、
また違う種類の鼓動だった。

……なんで、こんなに……

私の周りは
一気に騒がしくなってるの。



定刻になり講義室に、
静かなざわめきが戻る。

大和君は私の隣に座ったまま、
何事もなかったかのように講義を受け始めた。

……いやいや、なんでこの人当たり前の
ように講義受けてんの!?

肘がぶつかる。
ノートを覗き込まれる。
ペン先をわざと私のノートに滑らせてくる。


「……っ」

小さく身を引くたびに、
大和君は楽しそうに口元を緩める。

なんでこの人、
こんなに距離が近いの……!
席、空いてるところいくらでも
あるんだから、ここじゃなくても
いいじゃん。

とにかく振り回されては駄目……。

集中しようと板書に目を向けても、
視界の端に映る横顔が気になって仕方ない。


それでも、大和君は私に様々な
ちょっかいを出され……


そして、耐えきれなくなった私は……
プツンと糸が切れた。



「もう!!」
「いい加減にしてください!!」

シーンっと一斉に、……静まり返る講義室。

自分の声が、思った以上に
大きく響いたことに気付いた瞬間、
心臓が一気に跳ね上がった。

教授がこちらを睨む。


「そこの二人。」
「うるさいぞ、イチャつくな。」


「……っ!!」
「い、イチャついてないです!」
「それから……すみません……。」


慌てて頭を下げる私の横で、


「すみません〜。」



大和君は、
まるで悪びれる気すらなく、
軽いノリで謝る。


なんでそんな余裕なの……!?

それ以降、私は一刻も早くこの席、
この空間から離れたくてたまらなかっわた。

講義の内容なんてまったく頭に入らない。



そして、ようやく終業のチャイム。

私はほとんど反射的にだろうか
スマホを取り出す。

隼人君からのLINE。

『もう着いた。』
『大学のカフェテラスにいる。』


……胸が、ぎゅっと鳴った。


隼人君……。

私は急いでノートと筆記用具をリュックに突っ込み、
椅子を引く音も気にせず立ち上がる。


そのまま、教室を出ようとすると――


「わっ!」
「ちょっと待ってよ!」

背後から聞こえる、大和君の声。

振り返る暇もなく、
私は早歩きになり、次の瞬間には走り出していた。


「待ってってば!」

追いかけてくる足音。


えっ!?
なんで追ってくるの!?


私は外に飛び出し、
冷たい空気を吸い込みながら全速力で走る。

視界の先に、
大学内のカフェテラスが見えたと
同時に、大和君のスマホが鳴り響いた。


「……っ」

大和君の足が一瞬止まった、その隙。

―――花壇の影から、スッと伸びる手。


私の手首が、しっかりと掴まれた。


「わ――っ!」

引き寄せられるまま、
体が後ろに倒れる。


でも、痛みはなく代わりに感じたのは、
柔らかくて、あたたかい感触。


驚いて振り向くと……

そこにいたのは、

カジュアルなコートに、
黒縁メガネ、黒いマスク。

だっ……誰!?

……でも。

その腕……
その匂い……
その、守るような抱き方。

私、知ってる……。


「……隼人、君?」


「しっ!……声、出すな。」


耳元で、低く囁かれる。
< 77 / 90 >

この作品をシェア

pagetop