鈴村君の裏の顔

「……チッ。」

望愛が懸命に逃げてるのに、
あの男……どんどん望愛との距離を詰める。


って言うか……アイツ……どっかで
見た事あんだよな……。


男のスマホが鳴った、
その一瞬の隙。

俺は花壇の影に回り込み、
望愛の進行方向を読む。

そして……

俺は、迷わず手を伸ばした。

手首を掴み、
自分の胸に引き寄せる。

えっ!?軽っ!!

俺が想像してた以上に望愛の
身体は思ったより、ずっと軽かった。

そのまま後ろに倒れ込んで、
花壇の影に身を隠す。

……腕の中で、
望愛の身体が小さく震えた。


「しっ!……声、出すな。」

耳元で囁いたのは、
警告と、安堵の混ざった声だった。

……無事でよかった。

心臓が、やけにうるさい。

怒りと焦りと、
俺が守れたことへの安堵が、
一気に押し寄せてくる。

俺は、ここまでしてでも、
こいつを守りたかったらしい……


自覚するには、
充分なくらい俺は望愛の事が好きから、
好きすぎていつの間にか心を全て
持ってかけれてたんだ……。


隼人 side 終わり







「……もう18時前だ。」

隼人君は、私の手首を離しながら、
何事もなかったように言った。

「一緒に、夜飯食うぞ。」

そう言って、すっと立ち上がる。

「……えっ?」

思わず、間の抜けた声が出た。
待って……私、今日一緒に
ご飯食べる約束してないんだけど……。


「なに?」

隼人君が即座に反応してサッと振り返る。

「不満あんの?」

その目は、
“断る選択肢なんてないだろ?”
とでも言いたげで……
俺様発言をしていた。


私は少し呆れつつ、
でも、どこか安心している
自分に気付いてしまう。

私……隼人君の事苦手だったはず
なのに……。
なんでこんなに普通に話せたり、
安心しちゃってんだろ……。

そっか……彼は、俺様だけど根はすごく
優しくて、不器用だけど
人の気持ちに寄り添えれる人なんだ。


「……ないです。」

私は小さく答えると、

「だろ。」

隼人君は当然みたいに言って
ニヤリと笑を私に見せた。


ホント……ずるい……。


「でも……ご飯って、どこ行くの?」


そう聞くと、
隼人君はポケットに手を入れたまま言う。

「もう、18時30分に予約してある。」


「……はあ?」

思わず、足が止まった。

予約!?
いつしたの!?

ってかもうすぐで18時間30分
なんだけど!

私が驚愕しているのを見て、
隼人君は口元だけで笑う。


「安心しろ。」

隼人君は一歩近付いて
低い声で付け足す。

「店はこの辺で近い。」

……なんで、この人は、
こんなにも自然に、
私の予定を奪っていくんだろう。

心臓が、また跳ねる。

私は何も言えないまま、
隼人君の後ろを歩きついて行く。


夕方のキャンパスに少し冷えた空気。
コートを着ていても今日は寒い。

だけど……どうしてだろう……

隼人君の背中は、
不思議と、あたたかく見えた。



店の前に着いた私と隼人君は、
イタリアンレストランの扉をくぐると、
ふわりとオリーブオイルと
焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐった。

落ち着いた照明に、
木目調のテーブル。
大学の近くとは思えないほど、
大人びた空間だった。


「……ここ、すごく雰囲気良い。」


私が小さく呟くと、
隼人は当たり前のような顔で
椅子を引きながら言う。


「だろ?」
「うるさすぎないし、落ち着く。」

向かい合って座ると、
自然と距離が近く感じられて、
私は無意識に背筋を伸ばした。

メニューを開きながらも、
さっきまでの出来事が頭から離れない。
大和君に追いかけられて、
隼人君に助けられて、そして今、
こうして二人で夜ご飯。


料理を注文し終えると、
隼人はグラスの水を一口飲んでから、
ふっと視線を向けてきた。


「なあ……」


「はい?」


「お前のこと、もっと知りたい。」

唐突な言葉に、私の心臓が跳ねる。


「……え?」

「だから……好きな事とか。」
「何が楽しいとかそういうの。」

真っ直ぐすぎる視線に、私は一瞬言葉を失った。

好きな事……か。
頭に浮かんだのは、
部屋いっぱいに並んだ漫画と、
夜更かししてまで観るアニメ。

これ……言っていいのかな?

子どもっぽいって思われないだろうか。
引かれたらどうしよう。

そんな不安が胸をよぎって、
視線がテーブルに落ちる。


「……その……」

少しの沈黙のあと、
私は意を決して顔を上げた。


「漫画と、アニメが……」
「好きです。」


言い切った瞬間、
心臓がぎゅっと縮む。
けれど隼人君は、
意外そうに目を瞬かせただけだった。


「へえー。」


それだけ?と不安になる間もなく、
隼人は口元を緩めて続ける。


「じゃあさ。」
「今度、俺におすすめ教えろよ。」



「……え?」



「お前が好きな漫画もアニメも。」
「望愛がススメたやつ観るわ。」


その言葉を聞いた瞬間、
私の表情がぱっと花開いた。


「もちろん!」


思わず身を乗り出してしまった。


「漫画とアニメのことは、任せて!」
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