鈴村君の裏の顔

その笑顔は……
嬉しさがそのまま溢れたようで、
無邪気で、眩しかった。

――しまった。

俺は内心、そう思った。
真正面から向けられたその笑顔に、
胸を撃ち抜かれたような感覚。
顔に熱が集まるのが自分でも分かる。

なんでそんな顔で笑うんだよ……

視線を逸らしたいのに、逸らせない。
望愛の表情から目が離れなくなっていた。


「……隼人君?」


「なんだ?」

気付かれないように……

「顔、赤いけど……大丈夫?」


「……っ!!!」

心配そうに言いながら、
望愛は少し立ち上がり、
俺のおでこに手を伸ばそうとする。

その瞬間…………


「触んな!」


俺は反射的に望愛の手首を掴んだ。


「……っ。」

掴んだ手の細さと温もりに、
さらに動揺する。

自分で掴んでおきながら、
余計に鼓動が速くなる。


「……ご、ごめんね。」

望愛はすぐに手を引こうとし、
シュンとなって小さく謝った。
その声に、ほんの少しだけ傷ついた色が混じる。

俺はそれに気づいて、
胸の奥がちくりと痛んだ。

違う……嫌なわけじゃない。

むしろ逆だ……逆なんだよ!
触れられたら、
これ以上平静でいられなくなるから……


「……悪い。」

短くそう言うのが精一杯だった。

そのタイミングで、
注文した料理が運ばれてくる。
望愛はドリアで俺はパスタ。

湯気とチーズの香りが、
ぎこちない空気を少し和らげた。


「……美味しそう。」
「いただきます。」

私がスプーンでドリアをすくい、
口に運ぼうとしたその時……


「おい、待て。」


「え?」


隼人君はいきなり、
私の手首ごと自分の方に引き寄せた。


「俺にもひと口よこせ。」


そのまま、隼人君は……
ぱくっとドリアを口に入れる。


「ちょ、ちょっと……!」

驚く私をよそに、
隼人君は満足そうに頷いた。


「うん。うまいな!」

今度は俺が自分のパスタをフォークに絡める。
そして……


「ほら……」

フォークを差し出しながら、
少しだけ顎を上げる。


「……んっ。食えよ」

えっ……とこれは一体……


私は、一瞬戸惑い
フォークを受け取ろうと手を伸ばすが……


「違うだろ。」


隼人君は私の手を制して言った。


「俺が持っててやるから。」
「ほら、食えよ。」


距離が、一気に縮まる。
私の顔が熱くなるのが、
自分でも分かる。


「……っ////。」


逃げ場がなくて、
私はゆっくりと隼人君の方へ顔を近付ける。
視界いっぱいに、隼人の真剣な瞳。

フォークの先のパスタを、そっと口に含む。

「……ん」

ひと口食べただけなのに、
心臓の音がうるさすぎる。


てかテンパりすぎて……
味、わかんないよ。


俺は望愛をじっと見つめながら、
喉を鳴らした。

……可愛すぎだろ。

自分が何をしているのか
分かっているのに、止められない。

望愛が少し照れたまま目を伏せる、
その仕草ひとつひとつが、
胸を締め付けてくる。

二人の間に流れる空気は、
料理の温度よりも、確かに熱を帯びていた。



料理をすべて食べ終え、
静かに満たされた空気が二人の間に残った頃。
テーブルの上には空になったお皿と、
少し氷が溶け始めた水のグラスだけが並んでいた。


俺はさっと席を立ち、
何も言わずにレジへ向かう。
望愛が「あ……」と声を出す前に、
会計はすでに終わっていた。


「隼人君!私の分……払っ」


望愛が言う前に俺は言葉で塞いだ。


「いい。今日は俺が誘った。」


短く、でも当然みたいに言う隼人君の横顔に、
私はそれ以上何も言えなくなる。
胸の奥が、じんわりと熱を持った。


「ありがとう。」
「ごちそうさまでした。」


店を出たあと、
夜の風が二人の間をすり抜ける。
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