鈴村君の裏の顔
掃除を始めて、少し経つ。
掃除機をかけながら、
私は内心で安堵していた。
思ってたより、みんな普通だ。
もっと……こう……
芸能人ぶってるのかと思っていたから。
そんな事を思っていたら、
後ろから不意打ちに声をかけられる。
隼人
「それ、どこ置くの?」
振り返ると、鈴村君がいつの間に
か近くに立っていた。
望愛
「え、あ……棚の上に。」
隼人
「了解。」
近っ!!
距離、近くない!?
こんなものなの?
一瞬そう思ったけれど、
気のせいだと思う事にした。
すると今度は近くのキッチンのから、
樋口君の声が聞こえた。
優希
「あっ……そっちの棚、」
「左は使わない方がいいよ。」
望愛
「え?」
優希
「少しネジ緩んでるから。」
淡々とした口調で樋口君は言う。
望愛
「あ、ありがとうございます。」
彼は小さく頷いて、
リビングの方に行ってしまった。
気遣ってくれたのかな?
私は分からないまま、掃除を続けた。
しばらくして……
私はキッチンで、
洗い終わった食器を拭いていた。
水音が止まり、
部屋には時計の秒針の音だけが残っている。
みんな各々と、台本らしき物を読んで
仕事してたり、部屋に戻って行く人もいる。
アイドルの寮というより、
忙しい男の人たちの生活の場所を
見ているようだった。
そんなことを考えながら、
グラスを棚に戻した時だった。
優希
「……三上さん。」
背後から、静かな声がした。
振り返ると、
そこに立っていたのは樋口優希君だった。
さっきよりも、少しだけ距離が近い。
望愛
「はい?」
そう返すと、彼は一瞬、
言葉を探すように視線を伏せた。
その仕草が、なぜかとても人間らしく見えた。
優希
「今、少し……いい?」
望愛
「え、はい。」
「大丈夫です」
私が答えると、
彼は小さく息を吸って、
覚悟を決めたように顔を上げた。
優希
「さっき……最初に、」
「急に名前呼んで、驚かせたよね。」
望愛
「あっはい……ちょっと、」
「びっくりしました。」
正直な気持ちを伝える。
すると彼は、ほんの少しだけ
困ったように笑った。
その笑顔は——
さっきまでの“クールなアイドル”のものとは、
明らかに違っていた。
優希
「やっぱり、覚えてないよな……」
望愛
「……え?」
その言葉に、胸が小さく跳ねる。
優希
「俺さ……」
彼は、ゆっくりと言葉を選びながら続けた。
優希
「小学生の頃、」
「君と同じ学校だったんだよ。」
一瞬、理解が追いつかなかった。
望愛
「……小学生?」
優希
「うん、クラスも一緒だった。」
そう言って、
彼は少しだけ表情を緩める。
優希
「放課後、よく漫画読んでたよね。」
その瞬間。
胸の奥で、何かが、かちりと音を立てた。
——放課後
——教室
——机の上に並んだ漫画
……あっ
頭の中に、映像が流れ込む。