鈴村君の裏の顔


「家まで送る。」

おれは迷いなく言った。


「でも……明日隼人君、」
「朝早いんでしょ?」
「朝のニュース番組ゲストで呼ばれて。」

「それに、私ここから電車一駅だし……」

そう言って断ろうとする望愛に、
俺は立ち止まり、振り返る。

「だから?」
「関係ない...ほら、行くぞ。」

有無を言わせない声で、
望愛の手首を軽く掴み、そのまま改札を抜ける。
自分でとった行動なのに
心臓が一拍、強く跳ねた。

電車に揺られる時間はほんの数分。
並んで立つ距離が近すぎて、
肩が触れそうで触れない。


俺と望愛は駅を降り、
夜道を少し歩くと、
望愛のマンションが見えてきた。

すると、望愛は少し寂しげな顔を
俺に見せて言う。


「もう着いちゃったね……。」


そんな声や表情で言ったら
俺……期待してしまうだろ……。
コイツ……まじで俺の気持ちを
掻き乱すのが得意だな。


「早いな。」


隼人君が短い返事をする。
その短い返事でさ私の胸の奥が
ドクンと音が鳴っていた。

やっぱり……
最近の私……変だと思う。
今度、由佳に相談しよう。


私と隼人君は、
他愛もない会話をしながら、
マンションの目の前で足を止める。


足を止めたと同時に私のスマホが震えた。


画面に表示された名前を見て、
私は隼人君に、”ごめん電話”と言って
すぐに出る。


「もしもし、優希?」

《あ、やっと出た。》
《今さ、次の番組の収録するのに》
《向かってる途中なんだけど……》


電話口から聞こえる、明るくて少し甘えた声。
私の表情が、ふっと柔らぐ。


「うん。」
「どうしたの?」


《声、聞きたくなって……》


「優希……声聞きたいって」
「何だか照れちゃうね。」
「今どこに向かってるの?」


《テレビ局だよ。》
《もうすぐで着きそう。》



望愛が優希と電話中……
隣で黙って立つ俺は、
何も言わずに夜空を見上げていた。
けれど、望愛が何度も優希の名前を呼ぶたび、
眉がわずかに勝手寄っていく。


《で、望愛は今日は何してたの?》


「今日はね……講義受けて、」
「そのあと……ご飯行って……」


正直に、でも簡単に話す。
優希君も移動中で忙しいし、
私も隼人君を待たせちゃってるから、
家帰ってからLINEで詳しい説明は送ろ。


その間も、優希君との会話は少し続き
「優希」「優希」
と私は優希君ではなく……
慣れないけれど優希と呼び捨てで意識して呼ぶ。


お試しに付き合う事になってからの
ルールを守らないとと言う意識が強く
出たのだと私は思う。



《そっか。じゃ、また後で連絡する》


「うん、頑張ってね優希。」

通話が切れた瞬間……
夜の空気が、少しだけ張り詰めた。


隼人君が、いつもより更に低い声で言う。


「……優希なんだって?」


「うん。あのね、優希が……」


「ぅ……うるせぇ。」


説明しようとした私の言葉は、
隼人君の”うるせぇ”の一言で途中で止まった。
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