鈴村君の裏の顔
……そうだ、ケーキ!
明日、みんなで食べるクリスマスケーキ。
買うんじゃなくて、作ろう。
そう思いついて、
1階のスーパーへ向かおうとした、その時。
——ブーブー。
スマホが震えた。
画面を見て、一瞬、足が止まる。
画面に表示されている名前は……
《大和》
……えっ。
どっ……どうしよう……
出るか、出ないか。
今回、電話がきたのは初めて。
私は迷う……。
それでも、私は通話ボタンを押してしまった。
「……もしもし」
《あ! 望愛ちゃん!》
耳に飛び込んできたのは、
やけに明るい声。
《ねぇねぇ、今どこにいるの?》
「どこって……るるぽーとですけど。」
《やっぱり!》
「ん?……え?」
”やっぱり”?
私はその言い方に、
小さな違和感を覚えた、その瞬間。
《望愛ちゃん、見っけ!》
電話越しの声と、
背後から聞こえた声が、重なる。
重なったと同時に
トン、と肩を叩かれた。
「ひゃっ!?」
反射的に振り向いた瞬間、
視界に入ったのは、大和君の顔。
驚きすぎて、
足に力が入らなくなる。
「わ……っ!」
腰が抜けそうになった、その瞬間。
大和君の腕が、
私の身体を支えた。
「の……望愛ちゃん危ない!」
「……っ。」
「ごめん、驚かせるつもりは」
「なかったんだ。」
そう言って、ゆっくり私を立たせる。
「だ……大丈夫、です……。」
心臓が、びっくりして
まだドクドクとうるさい。
まさか、こんなところで大和君が
現れるなんて。
クリスマスのざわめきの中で、
予想していなかった再会。
——胸の奥に、
不安と、ざわつきが広がっていく。
支えられて、
ようやく体勢を立て直したあとも、
心臓の鼓動は、
なかなか落ち着いてくれなかった。
本当……この人は何故こう突然と
姿を現すのだろう。
「……あの!」
私は、大和君の顔を見上げて、
どうしても引っかかっていた疑問を口にする。
「なんで……私がここにいるって、」
「分かったんですか?」
るるぽーとの人混み。
偶然にしては、タイミングが良すぎると
私は疑いはじめる。
大和は一瞬だけ目を瞬かせて、
それから、少し照れたように口元を緩めた。
「実はさ……」
深く被ったバケットハットに、
ボストン型のメガネ。
周囲に溶け込むための変装姿のまま、
大和君は続ける。
「明日のクリスマス、」
「親友とその親友の仲間たちと」
「パーティすることになってて。」
「その時、プレゼント交換しようって」
「話になったみたいだから、」
「人数分のプレゼントを買いに来てたんだ。」
「……そう、だったんですね。」
偶然だったんだ……疑ってしまったぶん
心がチクッとする。
「うん。」
「それで、ショップ見て歩いてたらさ、」
「後ろ姿が、すごく望愛ちゃんに」
「似てる子を見かけて……」
「もしかしたら、って思って。」
「でも、いきなり声かけるのは」
「怖いかなって思ってさ。」
大和は、はにかむように笑った。
「だから、声かける前に電話してみた。」
「だけど、望愛ちゃんとわかった瞬間」
「声と、身体が同時に動いてしまって」
「驚かせてしまってごめんね。」
「……いえ」
「状況は分かりましたので大丈夫です。」
なるほど、と納得しつつも、
胸の奥に小さなざわつきが残る。
それはきっとこの間、講義終わり
嫌な態度を取って逃げてしまった事を
私は後悔しているからのだと思い……
「……あの、大和君。」
私は少しだけ視線を落として、
言葉を選びながら続けた。
「この間、講義が終わったあと…」
「大和君が追いかけて来た時、」
「逃げちゃって、ごめんなさい。」
大和君の表情が、
少しだけ驚きすぐ柔らかくなる。
「あの時、本当にびっくりしちゃって……」
「大和君……初対面なのに、」
「距離、詰めすぎるから」
自分でも、
少し正直すぎたかもしれないと思った。
でも、大和君はすぐに首を横に振った。
「全然、気にしてないよ!」
そう言って、少し困ったように笑う。
「むしろさ、僕が一方的に望愛ちゃんと」
「仲良くなりたくて、身体が勝手に」
「動いちゃっただけだから」
「こっちこそごめんね。」
軽く肩をすくめてから、大和君は続ける。
「あの後、スマホに」
「着信入ってるのに気付いて」
「スマホの画面確認して、顔上げたら……」
「望愛ちゃん、いつの間にかいなくなってて」
くすっと大和君は笑って続けて話した。
「逃げるの早っ、とは思ったけど(笑)」
その言い方が冗談めいていて、
責める気がまったくないのが伝わってくる。
「……すみません。」
私は、曖昧に笑って濁した。
すると、大和君は私の持っている
ショップ袋に目を向けていた。
「望愛ちゃんも、買い物?」
「え……あ、はい。」
私はこくりと頷き説明をする。
「私も明日、クリスマスパーティがあって……」
「同じくプレゼント交換するので、」
「そのプレゼントと後、」
「ケーキ作る予定なので、その材料を……」
「へぇー!」
大和君はメガネ越しから目を丸くしたあと、
嬉しそうに笑う。
「すごいね!」
「僕達同じようなこと、しようとしてるんだ!」
その言葉に、
一瞬だけ距離が縮まった気がした。