君に捧げるアイラブユー
「東の班は?」
私は話題を変えるように尋ねた。
「あー、遅すぎて置いてきちゃった」
東は後ろを振り返りながら軽く言う。
この前の朝の下駄箱の件でも思ったけれど、東って、意外と自由人だ。
優しい人かと思えば(いや、実際人一倍優しいのだけれど)普段は柔らかいのに、ときどきびっくりするくらい容赦なくズバッと言う。
私はまだ東に冷たい言葉を向けられたことがない。いつだって優しくしてくれるし、笑ってくれるし、普通に話してくれる。でももし。
もし私がもっと近づこうとして、東の中の線を越えてしまったらどうなるんだろう。
少し怖いくらいなのに、知らなかった東を知るたびに、もっと知りたいと思ってしまう。
もっと話したい。もっと近づきたい。もっと特別になりたい。そんな欲張りな気持ちがどんどん大きくなっていく。
東はそんな私の気持ちなんて知らないまま、隣で普通に笑っている。その横顔を見つめながら、私はこっそり思った。
お願いだから、もう少しだけ。この時間が続いてほしい。せっかく会えたんだから、もう少しだけ東の隣を歩いていたい。
そう願うたびに胸の奥が甘く苦しくなって、私はまた東の顔を見られなくなってしまうのだった。
「一緒に行こうよ、西宮。班、俺も入れて」
東が何でもないことみたいにそう言った瞬間、私の思考は完全に停止した。