涙色のアリス After The Story.

それから、、、

 3月8日、楓は死んでしまった。 父重治を何とか目覚めさせようとしていたのに、、、。
「お父さん 自分が何をしてるか分かってるの?」 「うっせえ‼ 引っ込んでやがれ‼」
「このままじゃお父さんは地獄行きよ。 それでもいいの?」 「お前なんかに説教される筋合いは無いわ‼ 黙ってろ‼」
 重治に縛られていた後妻 明美さんは気を失いかけていた。 「「お母さんだけでも放してあげたら? 関係無いでしょう?」
「のぼせんじゃねえ‼」 そう言って彼は空に向けて銃をぶっ放した。
 「危険だ。 下がりなさい。 機動隊に任せるんだ。」 捜査員もそう言って楓を下げようとした。
 「大丈夫です。 私が説得します。」 楓は忠告を聞かずにまた重治の前に立った。
「お父さん 何を考えてるの?」 「てめえには関係ねえだろう。 引っ込め‼」
 「相当に薬にやられてるな。 何が起きるか分からん。 狙撃準備をしろ。」 体調の命で隊員は銃を構えたんだ。
「お父さん 私はあなたの子供になって幸せだったわ。 でももう終値。」 「何だと? ぶっ殺してやる‼」
 銃声が聞こえたかと思った瞬間、楓は倒れた。 「打て!」
体調の号令で前列の数人が重治に向けて発砲した。 「突入だ‼」
 家の正面には別の捜査員たちが突入準備を済ませていた。 事件はやっと解決した。

 意識を失っていた明美さんは病院へ搬送されたがその後は狂乱状態が収まらず精神科に入院してしまった。
重治はもちろんその場で死亡が確認され、楓も救命救急センターに搬送されていった。
 「よし。 追い掛けよう。」 事態を見守っていた佐々木さんは俺を引っ張って救急車を追い掛けてくれた。
処置室から出てきた医者は険しい顔で言った。 「今から緊急手術だ。 助かるかどうかはやってみないと分からない。」
 「楓。」 「私のことなら心配しないで。 大丈夫だから。」
小さな声でそう呟くのがやっとだった楓は目を閉じた。 そして緊急手術は始まった。
 俺は手術室のランプを恨めしそうに見詰めている。 佐々木さんも黙ったままドアが開くのを待っていた。
1時間半ほど経って出頭していた医師が手術室から出てきた。 「ご家族の方ですか?」
「いえ。 知り合いです。」 「そうですか。 安塚楓さんですが、、、。 弾丸が急所に命中していて叶いませんでした。」
 医師は手を合わせてから手術室に戻っていった。 「俺は守れなかった。 あの時、、、。」
人込みの中で楓は何とか傍に行こうとしていた。 俺と佐々木さんはそれを必死に抑え込んでいたんだ。
「う、、、。」 楓が腕を振り上げた時、俺はよろめいてしまった。
 その隙を突くように楓は父親の前にすっ飛んで行ったんだ。 「やめろ‼ 殺されるぞ‼ 戻るんだ‼」
捜査員も機動隊も楓を圧し留めようとしてくれた。 でも楓は父親の前に立った。
 乱れ切っていた重治は楓を撃ち殺してしまった。 それで本当に良かったんだろうか?

 棺桶に入れられて家に戻ってきた楓はいつもより優しい顔で眠っていた。 「楓。 見えるか? 帰ってきたぞ。」
蓋を取って抱き上げてみた。 いつものようにツインテールの髪が揺れた。
 (もう、この髪も触れなくなるんだな。 寂し過ぎるよ。 楓が居なきゃこれからどうしていいのか分からないじゃないか。) 不思議にも涙は出なかった。
佐々木さんは楓を抱き締めている俺をそっと見て部屋を出て行ったんだ。 何をしてたんだろう?
 その後、重治と楓の葬式が営まれた。 でも二人が並ぶことは無かった。
そう、重治は組長のほうで弔われたんだ。 「殺した犯人と一緒に並ぶのは嫌だろうからうちでやらせてもらうよ。」
 楓の葬式にはクラスメートだった連中も皆来てくれた。 普段話すことはそんなに無かったけど。
その夜も俺は楓の傍に居た。 離れたいとは思えなくてさ。
「ずっと楓さんを守ってやってくれよ。」 あの日の佐々木さんたちの笑顔が忘れられなくて。
 温泉で二人揃って慣れないスキー板を履いた。 歩くのがやっとで翌日はひどい筋肉痛で動けなかった。
部屋で寝転がっていたら楓が上に乗ってきた。 その勢いで俺たちは初めてセックスをした。
 これまでぼやけていた好きって気持ちが形になって表れたような気がした。 これからだったのに。

 温泉旅行から帰ってきて俺たちは就職準備を始めた。 楓は本屋さんに就職が決まってどっか嬉しそうだったな。
俺はというとショッピングモールの販売員になることが決まってこの町を離れるかどうかで悩んでいた。
 「いいじゃない。 私たちずっと一緒なのよ。 もう離れたりしないよ。」 楓はそう言って俺を慰めてくれるんだ。
「嫌なことが有ったら私を抱いたっていいのよ。 私はもう桜木君の物なんだから。」 そんなことまで言ってくれるんだ。
(何年か頑張って楓と結婚しよう。) そう心に決めて卒業式を迎えたんだよな。
 そんなあの日、佐々木さんがスイートに駆け込んでくるまで事件のことは知らなかった。 卒業したことに俺も楓もホッとしてコーヒーを飲んでいた。
叔父さんが蒼くなって「楓ちゃん お父さんが立て籠もったんだって。」って言ってきた時、楓は血の気が引いた顔で立ち上がった。
「お父さんを停めなきゃ、、、。」 「そうは言うけど銃を持ってるんだ。 下手に動いたら殺されるぞ。」
「それでもいい。 私が止めなきゃ誰も止められないわ。」 「分かった。 俺も行くよ。」
 それで俺たちは野次馬が集まっている楓の家に向かったんだ。 通りにまで野次馬が溢れていた。
物陰から見ていると親父さんが銃を持って何か叫んでいる。 「誰だ‼ 警察に密告しやがったやつは‼ 出てこい!」
「密告?」 「そうらしいね。 詳しいことは分からないんだけど。」
さすがの佐々木さんたちも意味不明だったらしい。 でもそれは事実だったんだ。
 この家を出た人がどうも様子がおかしい。 それに気付いた近所のおじさんが「あそこで覚醒剤か何かが売られているぞ。」って垂れ込んだんだ。
そこで警察は前々からマークしていた麻薬ジーメンと一緒になって家宅捜査に踏み切る決断をした。
その動きに気付いた売人たちが重治に吹き込んだんだ。 それがこの騒ぎに発展した。

 重治が死亡したことが確認された後、徹底的な捜査が行われて寝室から証拠が山のように押収されていったのは言うまでも無い。
その後、後妻さんは離婚手続きをしたらしいと聞いている。 楓も居なくなってしまった。
 姉さんは何をしているのかというとカナダに移住してそちらで結婚生活を送っているらしい。 スケジュールも込んでいて日本へはしばらく帰ってこれないらしい。
この家は家主も無く住民も居ない空き家になっちまった。 そこで俺は考えた。
 もうすぐ入社式だという3月下旬、ショッピングモールに入社辞退を伝えた。 みんなは呆気に取られていた。
「どうするんだよ? またとない仕事のチャンスを潰して、、、。」 「いいんだよ。 仕事は探せば何でも有る。 それより何より俺は楓の傍に居てやりたいんだ。」
「楓の傍に?」 「そうだよ。 最後まで守るって約束したのに守れなかったんだ。 せめて傍に居てやりたい。」
 その言葉に佐々木さんは腕組みをして考えた。 「桜木君がそれでいいなら俺たちは何も言わないよ。」
他の二人も全く同感だったという。 「じゃあ、何か有ったらいつでも連絡をくれよ。」
そう言うと三人は安塚の家を出て行った。 その後、どうしているのかというと、、、。
以前に所属していた組にそれぞれが戻って暮らしてるんだってさ。
 俺はその後、坂本組が経営しているガソリンスタンドで働くことにした。 もちろんこの家から通いながらね。
ベッドの枕元には楓の写真を置いた。 それからトレードマークだったツインテールも火葬場で切り残してもらった。
いつもいつも楓があの笑顔で立っているようなそんな気がする。

 「桜木君 今日も仕事だね? 頑張ってきてね。」 写真に手を合わせる俺に楓はそう笑っている。
さあ、やるっきゃない。 楓の分も歩いていこう。
見ててくれよ 楓‼

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