闇底の純愛



掃除を始めてから15分弱。

この辺りに立ってる人間は私と京だけになった。


「お疲れ様」

煙草に火をつけ、一服しながらスマホを弄ってる京に一声かける。



そのときに、なんだか少し、表情に違和感を覚えた気がした。


……焦ってる?

顔をじっと見つめてみる。


でも見てるうちにいつもと変わらない気がしてきた。



京が焦ってるところなんて見たことないので、きっと見間違いだろう。


それにしても、返り血すら浴びてないのは一体どういう芸当なのだろうか。



京は、仕事の後にいつも煙草を吸っている。

砂糖を煮詰めて焦がしたみたいな、苦くて甘い匂い。


「あ、おつかれー」


スマホからパッと顔をあげて私ににこり、と微笑む。

その口から煙が吐き出されていくのをなんとなく眺めた。



「組織に終わったって連絡いれたから。報告書は明日でいいって。今日は解散、おやすみなさい。」


それだけ言って京に背を向け、家に向かって歩き出す。





すると、数歩も行かないうちに、後ろから腕をぐっ、と引っ張られた。



振り返ると困っているような、焦っているような、そんな顔をした京が私の腕を引いている。



引き止められたことなんて今までなかったので、驚いて立ち止まる。

余裕が無さそうなそんな顔も初めて見た。



さっき違和感を感じたのは見間違いでは無かったらしい。




「…なに?」


問うと、京は眉を下げて笑う。









「一生のお願い。……今夜泊めて?」








首を傾げた拍子に、耳元のピアスがキラリと光った。


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