幼なじみの不良くんは今日も柔軟剤の匂いがする
そして今日、学校の廊下はいつも通りの騒がしさだった。
​5組の教室からふと廊下を覗くと、遠くに彼の姿が見えた。
1組の教室の近くで、友達数人と話している。
​(……あ、楓吏だ)
​姿が見えただけで、心臓が跳ねる。
昨日、あんなに近くで話せたのに。家を行ったり来たりしながら、昔みたいに笑い合えたのに。
学校という大勢の人がいる場所に出た瞬間、やっぱり1組と5組の距離が、目に見えない大きな壁みたいに立ちはだかる。
​彼はこちらに気づいていないみたいだった。
ただすれ違うだけの距離。声をかける勇気が出なくて、私はただ遠くからその背中を見つめることしかできない。
​(……私ばっかり、こんなに気にしてるのかな)
​ちょっとだけ、胸がキュッと痛む。
中1の時は「話しかけられないのが当たり前」だったはずなのに。一度あの温かさと、大好きな柔軟剤の匂いを知ってしまったら、途端に欲しがりになってしまったみたいだ。
​もっと話したい。
私のこと、見てほしい。
​下を向いて溜め息をつきかけたた、その時。
​ふわっと、風が揺れた。
​――この匂い。
目をつぶっていても、世界中で一人だけ、絶対に間違えない匂い。
​「……何ボーッとしてんだよ」
​頭の上から降ってきた、呆れたような、でも聞き慣れた低い声。
ハッと顔を上げると、いつのまにか目の前に楓吏が立っていた。
​「楓吏……!? 1組にいたんじゃ……」
「お前が5組の前でアホ面下げて立ってるのが見えたから来たんだよ」
​そう言って、彼は少しだけ気まずそうに目を逸らす。
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